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校長Blog

2024年3月 サクラではない「サクラ」 


 3月下旬になり、ソメイヨシノはまだですが、サクラのなかまの開花が始まってきました。サクラは、バラ科のサクラ属の植物の総称ですが、和名にサクラが入っているけどサクラのなかまではない植物も多く知られています。例えば、埼玉県の花「県花」は、サクラソウという植物です。

 

田島ヶ原のサクラソウ

田島ヶ原のサクラソウ

 

県内ではさいたま市桜区の田島ヶ原に生育地があり、国の特別天然記念物として保護されています。サクラソウは、江戸時代には、花見の対象にもされていたそうです。本来は川の氾濫原で土砂が堆積した湿地などに生育していました。現在は、治水工事が進み、氾濫が起こらなくなり、ヨシの刈取をしたり、火入れをしたりするなど人の手が入ったりするような場所で、遷移が進みにくい場所に保護されて生育しているような植物です。田島ヶ原では1月に火入れを行い、地表に光が届くようになり、遷移も進まないようにしているそうです。田島ヶ原には、そのほか、先月の校長blogに書いた「春植物」であるジロボウエンゴサクやアマナなども生育しています。

 

ジロボウエンゴサク

ジロボウエンゴサク

 

アマナ

アマナ


 さて、実は小鹿野の地にも今の時期に花が咲くサクラではない「サクラ」が生育しています。フサザクラです。

 

開花が近いフサザクラ

 

フサザクラという植物は世界的には珍しい植物といえます。フサザクラのなかまであるフサザクラ科はアジアに固有で、フサザクラ属の1属だけでできています。フサザクラ属には2種が知られていて、そのうちの1種であるフサザクラが、本州、四国、九州に分布しています。秩父地域では特に珍しいものではありません。生育環境は、谷沿いの急な斜面などです。10mを超すこともある落葉高木で高さ10mを超すこともあります。今の時期は、ほかの木もほとんど葉をつけておらず、赤い少し変わった花が咲いているので注意していると気がつきます。フサザクラの花には、花びらである花被や、萼がありません。多数の赤い雄しべのやくが房状に下がっていることからフサザクラという和名になったといわれています。

 

フサザクラの花

花被や萼がなく雄しべが目立つフサザクラの花

 

花の時期以外は特に目立つ植物ではありませんし、花も特別目立つものではないですが、皆さんの近くに世界的に珍しい植物がひっそりと生育しています。明日からいよいよ新年度が始まりますが、小鹿野高校で学ぶ皆さんは、せっかくですから、まわりの豊かな自然にも気をとめて充実した学校生活を送ってもらいたいと思います。

2月 春の妖精

 今年は暖冬と言われていますが、上旬には、小鹿野町を含めた関東地方太平洋側の地域でも積雪がありました。中旬には最高気温が20℃を超えるまで上がった日もありました。日照時間も延びて、植物も春に向けて動き出しています。今月は春の妖精(spring ephemerals )ともいわれる「春植物」についてお話しします。 
 皆さんは春の花というと何を思い浮かべますか?サクラという人が多いかも知れません。また、ウメという方もあるでしょう。しかし、これらは春に花を咲かせますが、春植物ではありません。春植物というのは、ちょっと変わった生活様式の植物です。春植物は、単に春に花が咲く植物ではなく、一年のうちで春の短期間だけ地上に葉を展開して花を咲かせ、種子を作り、夏ごろまでには地上部を枯らして見えなくなるような生活をする多年生の植物です。一年のほとんどを休眠状態で過ごすので、地下茎などを発達させて生育に必要な栄養などを蓄えています。地下部が発達している春植物のカタクリは、地下の鱗茎にデンプンを蓄えます。そこから取り出したデンプンが、もともとは片栗粉として利用されてきました。

 

 カタクリ(撮影地 新潟県)

 

 小鹿野町には、セツブンソウという春植物の生育地があります。セツブンソウは、キンポウゲ科の草本で、開花期が2~3月ごろであることからセツブンソウと呼ばれています。秩父の地域では、2月の終わりごろから咲くことが多いと思います。下の写真は2007年に旧両神村で撮影したものです。この写真から生育環境の特徴がある程度わかります。落葉広葉樹林下で低木や常緑の草本が少なく春の開花期に地表まで良く光が届くような場所です。あわせて、芽を出して葉を開く時期にある程度、土壌が湿っていることも重要です。したがって、春植物が生育しやすい環境は、適度に土壌が湿っている落葉広葉樹林下で、低木層や草本層が発達していない場所という感じです。低木や草本層が発達しない環境は、人の手が入ることで維持される里山の自然だったりします。

 

旧両神村のセツブンソウ生育地

旧両神村のセツブンソウ生育地

セツブンソウ

セツブンソウ

 

 通常、植物は個体間でも種間でも光合成のために光を奪い合います。しかし春植物は、落葉広葉樹林の植物が葉を展げるころには一年分の地上部の活動を終えるため、他の植物と光を奪い合うことなく生育できます。つまり空間は一緒でも時間が一緒にならないような仕組みになっているわけです。これも限られた資源を有効に活用する植物の生存戦略のひとつと言えるでしょう。このような「春の妖精」が学校がある小鹿野町内で見られます。スギ花粉で辛い人もいるかも知れませんが、春を感じに出かけてみると新たな視点が得られるかも知れません。

1月 探究のすすめ

 始業式では、元日の災害のことや新しい年を迎えるにあたり目標を立てようとお話ししました。私もいくつか目標を立てました。今月は、探究に力を入れてもらいたいというお話をします。
 私は、大学を選ぶときに教職を目指しましたが、生物分野での研究にも興味がありました。私が生物分野に興味を持ったのは、小学生になるより前のことでした。当時、ありがたいことに生物に詳しい大人が私の身近にいました。その人の影響を受けて生物全般に興味を持ったのだと思います。それに加え、牧野富太郎氏による植物図鑑、いわゆる「牧野図鑑」にも大きな影響を受けました。最近の図鑑は、きれいなカラー写真が掲載されていて、見た目も美しく見ているだけでも楽しいものですが、「牧野図鑑」は、スケッチを基にした線画で植物を描いていて、一見地味です。しかし、写真では、細かい形態がわからないことも多く、丁寧に描かれた線画は大変優秀だと感じています。
 そのようなわけで私は植物のことを調べることに興味を持った子供でした。小学生のころ植物の興味の対象は、花が咲く種子植物でしたが、「牧野図鑑」でとても気になっていたものがあります。シャジクモやフラスコモといった車軸藻類です。車軸藻類は、淡水や汽水に生育する立体的な構造の比較的大きな藻類です。その線画を見て、生きている車軸藻類を見たいと強く思いました。しかし、残念なことに、高度経済成長期と呼ばれた1950年代から1970年代には、宅地や工業用地の造成など開発が進んでいました。池沼は富栄養化が進み、コイや草食性の外来魚の放流なども多く、陸水系の環境は悪化していました。私が車軸藻類を調べたいと思ったころには、県内で車軸藻類をほとんど見ることができなくなっていました。かろうじて、見ることができたのはシャジクモです。これは水田にも生育していて、家の近くでも見ることができましたが、そのほかの車軸藻類は見ることができませんでした。

 

シャジクモ(埼玉県産)

 

それから大人になってもなかなかシャジクモ以外の車軸藻類との出会いはありませんでした。しかし、機会はやってきました。あきらめないことで思いがかなったのです。遂に10数年前にシャジクモ以外の車軸藻類と出会いました。そして、子供のころの思いがよみがえってきました。「車軸藻類のことを調べたい」と。

 

クサシャジクモ(沖縄県の水田脇の水路に生育)


 日本の車軸藻類の研究は1950年代にかなりまとまっていたようですが、前述のとおり、生育環境の悪化が原因で、ほとんどの車軸藻類は絶滅危惧種になっています。しかし昨今、環境問題に対する意識が高まり、環境が改善されてきている面もあります。それに加え、車軸藻類の有性生殖で造る卵胞子は、生育に適する環境ができるまで60年も休眠できるといわれています。

 

 

ミルフラスコモの卵胞子(群馬県産)

 

実際に、東京都三鷹市の井の頭恩賜公園の池で、およそ60年ぶりにイノカシラフラスコモが再発見されています。井の頭公園の池は1957年に発見されたイノカシラフラスコモの基準産地だったのですが、1963年に池の水が干上がり、その後イノカシラフラスコモは見つかっていませんでした。2016年にかいぼりを行い、池の水を全部抜いて乾かしてから、改めて水を入れたところ、イノカシラフラスコモが復活したそうです。他にも、各地で休耕田やため池などで車軸藻類が再発見されたなど報文があります。私も県内を中心に調査を始めました。去年は、フィールドの調査で成果がありました。今年はその成果を形にしていくことが目標の一つです。1950年代の文献や最新の文献、中には英語で書かれている論文もありますが、それらを読んでみたり、現地調査を行ったり、観察し記録をすることなど、研究するにあたりやるべきことはたくさんあります。これはとても楽しい時間の使い方です。
 皆さんも学校では「総合的な探究の時間」があります。「探究」これは研究と言い換えても良いと思いますが、探究を通して何か物事を極めていくことの楽しさを味わってもらいたいと思います。そして身に着けた探究の手法は、皆さんが社会で出会う様々な課題に対応できる力になると思います。

12月 寄生植物

 先日無事に2学期を終業式を終えて冬季休業に入りました。学校から見える山の様子もスギやヒノキの人工林を除き、ほとんどの木々は落葉して厳しい冬の時期を過ごします。葉を付けていない方がエネルギーの収支で有利なのでしょう。

 今月は、少々変わった植物である寄生植物を紹介します。

 はじめに植物の特徴を確認します。植物の特徴は?というと、第一に葉緑体が細胞にあり、光合成をする生物であることではないでしょうか。昨今の環境問題でも大気中の二酸化炭素が増加していることが問題視されています。二酸化炭素の削減には、植物や藻類など光合成をおこなう独立栄養生物に頼ることが無理や無駄のない方法だと思います。植物や藻類が炭素固定する過程を光合成と言いますが、陸上の緑色植物が炭素固定で生産する有機炭素化合物は、グリーンカーボンとよばれ、主に海水性の植物や藻類が炭素固定により生成する有機炭素化合物をブルーカーボンとよんでいます。植物や藻類による光合成は、環境問題解決の鍵と言えます。

 話は戻り、寄生植物ですが、文字どおり寄生をする植物のことです。寄生とは、ある生物が、違う種の生物と共に生きていて、一方が栄養などを継続的に奪っている関係性のことです。共生の極端な形ということができると思います。奪う側は、寄生者といい、奪われる側は、宿主(しゅくしゅ)といいます。寄生者の方が宿主より小さいことの方が多いです。食う食われるの関係で小さい種類が大きい種類を少しずつ食べているというイメージもできそうです。

 寄生という関係が植物間に見られる場合、寄生者のことを寄生植物といいます。寄生植物とよぶ植物は、まとまった系統ではなく、いくつかの科にみられます。本来は光合成をして炭素同化する植物が、他の種類の植物から栄養などを奪うようになっていますので、およそ植物らしくないと言えます。そのためか、寄生の度合いが強いものは、ほとんど緑色をしていません。下の2枚の写真の寄生植物は、鹿児島県の奄美大島で2004年の12月に撮影したものです。葉緑素がなく、赤かったり、白っぽかったりと植物らしくない色をしていますね。

 

 ヤクシマツチトリモチ

 

ヤッコソウ

 

 寄生植物は埼玉県内にも生えています。先月小鹿野高校の敷地内にも生えているのを見つけました。この植物は、アメリカネナシカズラというヒルガオ科の植物です。その名のとおり、根がないつる植物です。このなかまは、種子が発芽して宿主になる植物に絡みつくと、寄生根で宿主の茎に自分の維管束をつなげます。そうすると、もともとあった根は不要になり、融合した部分から下はなくなります。色も緑色をしていません。全く光合成をしない全寄生植物です。

 

駐車場の植込みに生えていたアメリカネナシカズラ(黄色いつる状のもの)


アメリカネナシカズラの花

 また、寄生植物には、半寄生植物というものもあります。ヤドリギは半寄生植物で自らも光合成を行うため、緑色をしています。宿主が落葉する今の時期は緑色の塊に見えるヤドリギがとても目立ちます。特に珍しいものではないのですが、果実がキレンジャクやヒレンジャクなどの鳥に食べられた後、種子が糞と一緒に木の枝の上に排出されて、うまくそこで発芽できると、宿主の樹種の枝の中に侵入していきます。そのため、ヤドリギの分布は、果実を食べる鳥の行動範囲と関連すると言われています。県内では秋ヶ瀬公園などキレンジャクやヒレンジャクがよく見られるところにヤドリギが生えていることが多いようです。下の写真は群馬県前橋市の大室公園で2022年の3月に撮影したものです。ここもヒレンジャクやキレンジャクの飛来地として有名だそうです。冬は落葉樹に寄生するヤドリギをみるチャンスです。これから春の芽吹きまでの間、どこかに出かけたときに、上も見上げてみてください。

落葉しているサクラに寄生しているヤドリギ(緑色の部分)

11月 紅葉

 秋になると植物の葉が色づきます。一般的に紅葉と呼んでいる現象です。この時期に紅葉する樹木は、主に落葉樹という生活スタイルの植物です。紅葉した後、葉を落として冬を過ごすことになります。これに対して常緑樹というものがあります。こちらは1年を通して葉が付いているように見える樹木です。落葉樹は落葉している時期によって夏緑性、冬緑性と分けることができます。秋に紅葉しているのは夏緑性の樹木ということになります。

 紅葉と漢字で書き「もみじ」と読ませることもあります。古語に「もみいづ」という動詞があります。これは、葉をもむことによって色が出てくるというような意味で、これが「もみじ」の語源だと言われたりしています。古今和歌集にもこの言葉が使われている和歌があるようです。

 「もみじ」というと、紅葉する現象のほかに、カエデ属のことを指す場合があります。カエデ属は、「かへるで」つまり、カエルの手という意味と言われますが、多くのカエデ属の葉は、掌状に切れ込んでいることで、この形がカエルの手に似ているとされたようです。「かへるで」という語は万葉集の和歌でも使われているそうです。

小鹿野高校に植栽されているカエデ

小鹿野高校に植栽されているカエデ

 

 カエデ属は、庭園にもよく植えられていて、赤や黄色に美しく紅葉します。カエデ属の材は様々なものに利用されます。樹液はメープルシロップの材料にもなります。秩父地域ではイタヤカエデなどの樹液から作った、いわゆるメープルシロップを使ったお菓子などを生産しています。メープルシロップというとカナダのものが有名で、カナダの国旗にはその材料が採れるサトウカエデの葉がデザインされていますので、皆さんも見たことがあると思います。県産のメープルシロップは、イタヤカエデのなかまから採った樹液を原料にしていると聞いたことがあります。

 さて、紅葉の仕組みについて説明します。詳しいことはよくわかっていない部分がありますが、通常2つのパターンで説明されます。その前に共通することですが、落葉の時期が近づくと、葉柄の基部、つまり葉の付け根付近に離層という細胞構造ができます。そして時期が来ると、ここからぽろりと葉が落ちるようになります。この離層が形成される状況は、葉の維持に大きなコストがかかるときです。植物は、基本的に光合成をして炭水化物を生成しますが、その産み出すエネルギーと生活に必要なエネルギーの収支のバランスで消費が生産を上回るときには、葉を落として耐えたりすることになります。

 

落葉が近いメタセコイア

 

 最初に、黄色く色づく現象ですが、落葉を準備する過程で、光合成色素であるクロロフィルが分解されていきます。そうすると、葉を緑色に見せていたクロロフィルが減るので、緑色が薄くなるわけです。そのとき、葉に残っているカロテン、ニンジンのオレンジ色のもとです(ニンジンは英語でcarrotですが、caroteneと関係がある言葉だと思います)。そのほかの色素などまとめてカロテノイドといいますが、これらの色が見えてくるのが、黄色に色づく仕組みとされています。

 

黄色く色づいたイチョウ

 

 次に赤く色づく現象ですが、離層が形成されてクロロフィルが分解されるときにアントシアニンという赤や紫色系の色素(6月のスミレの生存戦略で紹介したノジスミレの花の色はこの色素によるものです)が作られ赤く色づくというものです。

 

小鹿野高校に植栽されているドウダンツツジ

 

 紅葉は植物が低温に適応した仕組みの一つです。植物にとって、低温と乾燥は生育に不適な状況です。生育に不利な状況である冬期に、葉を落として生育に適した時期まで耐え忍ぶわけです。

 明日から12月、1年の締めくくりの時期が近づいてきていますが、生徒の皆さんも来年度に向けて、葉が黄色く色づくように、内面の良さを際立たせたり、葉が赤く色づくように、新たな可能性を高めてもらいたいと思います。

10月 校章とイチョウ

10月23日は、小鹿野高校の開校記念日でした。今月は校章に関連したお話です。本校は、昭和28年に埼玉県立秩父農業高等学校小鹿野分校が埼玉県立小鹿野高等学校として設置されスタートしました。校章のデザインは、そのときに選定されたものです。2枚のイチョウの葉の上に高校の「高」が描かれ、ひし形のものは、地元である小鹿野町の町章を形どったものです。本校の母体であった埼玉県立秩父農業高等学校は、現在は秩父農工科学高等学校になっていますが、その校章にもイチョウがデザインされています。

 小鹿野高校の校章

小鹿野高校の校章

 

 このようにイチョウは、本校のシンボルではありますが、学校の敷地内に植えられているのはわずかに1本だけです。生徒のみなさんはどこに植えられているか知っていますか?敷地の内の国道側に注目してください。事務室の近くです。

 小鹿野高校内のイチョウ

本校敷地内唯一のイチョウ

 

 さて、イチョウとはどんな植物でしょうか?これから秋が深まると黄色く色づき、我々の目を楽しませてくれます。また、実のぎんなんは、茶わん蒸しには欠かせない食材だと思います。

 このイチョウは裸子植物という分類群の植物です。裸子植物にはソテツやマツ、スギなども含まれます。裸子植物なので花を付けますが、どれもみなさんが普通に花としてみている花とは違い、花とイメージしないような花を持つ植物です。

 裸子植物のイチョウのなかまは、古生代ペルム紀に現れ、中生代に栄え新生代になって今のイチョウ( Gingko biloba )だけが生き残りました。今は世界各地に植栽されていますが、もともとは中国には自生していた、まさに「生きている化石」です。小鹿野高校のある小鹿野町には「おがの化石館」があります。そこに問い合わせたところ、残念ながら小鹿野町からイチョウの化石は見つかっていないとのことでした。

 話は戻って、イチョウは雌雄異株の植物です。性別が雄の個体と雌の個体があるということです。つまり、実であるぎんなんは雌の木に着くことになります。しかし、雄の木に実ができたという事例もあります。

 私は以前、「オハツキイチョウ」という現象を調査しました。県内だと春日部市の寺院でも知られていますが、山梨県の身延市には「オハツキイチョウ」が3本あり、そのうちの2本は国指定天然記念物になっています。写真からわかるように葉のふちに小さいぎんなんが付いているので「お葉付き」イチョウというわけです。これら国指定天然記念物の2本は雄と雌で別々の場所に植えられています。当然、雄の木にはぎんなんは付かないのですが、葉のふちに何かついている感じでオハツキイチョウであることがわかります。時期を変えて2度調査に行ったのですが、2回目の調査で雄個体にぎんなんができていることが見られました。調査から帰って調べると、その1年前くらいだったと記憶していますが、この雌の個体に実ができたという報文を見つけました。やはり、地元でよく見ている研究者にはかなわないと痛感しました。みなさん身の回りのことに注目して何か調べると思わぬ発見に出会うかもしれません。

 

オハツキイチョウ(雌木)

オハツキイチョウのぎんなん(写真中央 葉のふち)と通常のぎんなん(写真右) 

 

9月の植物 ヒガンバナ

 暑かった夏が終わり朝晩かなり涼しくなってきました。「昔から暑さ寒さも彼岸まで」などと言いますが、今年もそのとおりになってきました。「お彼岸」は年に2回あり、秋分の日と春分の日のそれぞれその前後3日間を合わせた7日間が「お彼岸」です。

 さて、9月の中下旬ごろ、田のあぜなどで赤い花を咲かせる植物が目立ちます。その名もヒガンバナです。秋の彼岸のころ咲くことから標準和名がヒガンバナです。とても目立つ花なので、県内でもヒガンバナがたくさん咲く観光地は有名です。このヒガンバナは、もともと中国原産で日本に帰化した外来植物です。

 ヒガンバナは少し変わった生活をしています。ヒガンバナの1年を簡単に説明すると、開花している9月ごろには葉がありません。冬が近づくと葉を出します。その葉で光合成を行い、地下部にある鱗茎(りんけい)に養分を蓄えます。翌年の夏の前までに葉を枯らし彼岸のころまで地上部は見えません。これの繰り返しです。

 

路傍に咲くヒガンバナ

路傍に咲くヒガンバナ

 

 ところで外来植物のヒガンバナはどうして日本に渡ってきたと思いますか?花がきれいだから持ち込まれたのでしょうか?その答えは、鱗茎の養分に注目したからとなります。鱗茎(りんけい)とは皆さんがよく使う言葉でいうと「球根」です。ヒガンバナは、鱗茎を食べて飢饉のときの生き残るための救荒植物(きゅうこうしょくぶつ)として持ち込まれたようです。しかしいろいろと試したくなる私でも、ヒガンバナは食べたことがありません。なぜならヒガンバナは有毒植物として知られているからです。ヒガンバナのなかまはLycoris という属名の植物です。Lycoris にはリコリンという毒物が含まれています。飢饉のときなど、どうしても食べなければならない状況で、リコリンを取り除き食べたようです。十分に取り除くことができなければ健康に害があったことでしょう。そんなことから、ヒガンバナが救荒植物として使われたのは、新たな救荒植物、例えばサツマイモなどが普及すると使われなくなったと思われます。

 ヒガンバナは外来植物にも関わらず、注目されてきた植物といえます。その理由は、数多くの和名があることです。標準和名はヒガンバナで、これは図鑑にのっている日本全国共通の呼び名です。しかし、「方言」にあたる和名などたくさん知られています。例えば「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」は有名です。皆さんの御両親や祖父母の皆さんに聞いてみると、意外な呼び名があるかもしれません。私が育った県北地域でも住んでいるところで呼び名が少しずつ違っていました。私が小さいころ、近所のシニア世代の方は、「はっかけばばあ」と呼んでいたことを記憶しています。良い印象の言葉ではないですね。後に文献などで知りましたが、ヒガンバナの方言には「はっかけばな」という和名がありました。おそらく花が咲くときに葉を欠く、つまり「葉欠け花」と推測できます。そうすると、「はっかけばばあ」は「葉が欠ける」が「歯が欠ける」になり、「ばな」が「ばばあ」となったのではないかと納得しました。

 このように調べてみると知らないことがたくさんあります。皆さんが取り組む探究活動によって、今まで知らなかった事実に到達するかもしれません。研究することは大変おもしろいことです。皆さんもこれからの生活で自分でいろいろなことを調べることの基本を総合的な探究の時間の取組で身に付けることができると思います。探究活動にじっくり取り組んで下さい。

葛藤とはクズとフジが絡み合った状態

 夏休みが終わりが近づき、クズの花が咲き始めています。今月は、クズにまつわる話を紹介します。

 葛藤という言葉を聞いたことがありますか。イメージとしては2つまたはそれ以上の対立するものが心の中などにあり、どれか一つを選ぶことをすごく迷っている状態などが葛藤だと思います。

 葛藤は「葛」と「藤」の字から成り立っていますが、どちらも部首が「くさかんむり」なので植物に関係ある字であることに気が付くでしょう。「葛」は、「かずら」とも読み、この場合は、つる植物全般を指すような言葉です。また、「くず」とも読みます。「くず」と読ませる場合は、クズという植物のことになります。一方「藤」は、「ふじ」と読めば、フジという植物を指しています。また、「とう」と読ませる場合は、つる性の木本植物の茎のことを指します。似たような言葉に蔓という言葉があります。「まん」「つる」と読みますが、こちらは草本植物つまり、つる性の草の茎のことをさしている言葉です。今では「とう」よりも「つる」という言葉が一般的だと思います。ここまでで大体わかると思いますが、葛藤とは、つる植物が絡み合う様を表していて、心ががんじがらめになっている状態ということです。

 さて、ここからは植物のクズとフジの話です。クズもフジもマメ科のつる植物です。クズは、斜面や空き地などに生えるつる性多年性の草本で繁殖力が旺盛です。その繁殖力の高さから国際保護連合(IUCN)が定めた世界の侵略的外来種リストワースト100にも選ばれているほどです。しかしマイナス面ばかりではなく、クズは古来、様々な使われ方をしてきました。例えば、根に含まれるでんぷんを葛粉と言い、葛切りや葛餅などの材料にしました。同じく根を乾燥させたものを葛根といい、漢方薬「葛根湯」の原料の一つです。私は、春に伸び始めた新芽をぽきっと折り、天ぷらにして食べたこともあります。

フェンスを覆いつくすクズ クズの花

 日本のフジ属には、フジ(ノダフジ)とヤマフジがあります。寺院などに植えてあることも多いフジは花序(花の集まりのこと)が長く伸び、1mにもなります。それに対し、ヤマフジは自然に埼玉県で生育していないようですが、花序は10~20cm程度。つるの巻き方にも違いがあり、フジは、向かって右から左に巻き、ヤマフジは反対に左から右に巻きます。そのため花が咲いていない時期でも区別できます。フジは観賞用に栽培されるほか、つるが木質で丈夫なため、つるを編んで道具を作ったり、茎の繊維を使い布にして使っていたりしたことがあるそうです。花を天ぷらにして食べたこともあります。毒があると書いてあったりするwebページもあるので、食べるなら自己責任でチャレンジしてください。


向かって右から左に巻くフジ

 

 8月も残すところあと2日です。生徒の皆さんは新学期にさまざまな葛藤があるかもしれませんが、困ったことがあれば職員に相談してください。下の写真くらいの絡み方なら何とか解消できそうですね。絡み合ったつるをほぐし、すっきりとした気持ちで新学期を迎えられることを期待しています。

 

クズとフジが絡み合った様子 まさに葛藤か

小鹿野高校校歌にある「叡智の花」

 7月20日に1学期の終業式がありました。夏季休業を前に私からは、4月の入学式や始業式で生徒の皆さんに話した内容を振り返り、夏休み中にもいろいろとチャレンジしてもらいたいというようなお話をしました。そのほか終業式では、みんなで校歌を歌いました。小鹿野高校の校歌には、「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」というフレーズがあります。今月の校長Blogは、校歌の歌詞にある植物についてのお話です。

 当然、「叡智の花」はたとえだと思いますが、念のため「叡智の花」とよばれる植物があるのか調べてみたところ、花言葉が「叡智」という植物が見つかりました。

 その前にまず「叡智」という言葉が難しいので、こちらも調べてみました。小学館 精選版 日本国語大辞典によると「叡智」には以下の2つの意味が書かれていました。

 1 すぐれた知恵。真理を洞察する精神能力

 2 哲学で直面する理論的実践的諸問題を効果的に処理する知能

  このことから校歌のフレーズ「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」は、生徒の皆さんが小鹿野高校ですぐれた知恵、真理に迫る心を身に着けることを念じたものといえるでしょう。

 さて、ここからは、実在する植物としての「叡智の花」についてのお話です。キーワードを「叡智」と「花言葉」でウェブページを検索してみると、「知恵」が花言葉の植物も出てきますが、「叡智」は「すぐれた知恵」となっていますので、花言葉が「知恵」の植物は除外しました。すると叡智の花は、エンレイソウという植物でした。6月の校長Blog「スミレの生存戦略」でも書きましたが、同じようにエンレイソウというと、エンレイソウ属と、エンレイソウという名前の種(しゅ)を指す場合があります。エンレイソウ属はTrillium と属名を書きます。Trilliumという属名の命名者は、スウェーデンの博物学者、リンネです。この属名はスウェーデン語trilling「三つぞろいの」の転化と思われるという内容が小学館ランダムハウス英和大辞典第2版に書かれています。リンネは、生物の名まえを属名と種小名で表す二名法を始めたことでも知られています。二名法は現在も学名の書き方に受け継がれています。

 左下の写真を見ると何が「三つぞろいの」かわかると思います。葉の付き方が特徴的です。それに加えてエンレイソウは、地味な花ですが、花びら(花被片)も3枚のように見えます。エンレイソウはユリのなかまです。ユリの花は、右下のミヤマスカシユリの写真だとよくわかりますが、内花被3枚、外花被3枚で花びらが6枚に見えます。しかし、エンレイソウでは目立つ花被は3枚ですね。花というものは葉が変化したものですので、葉が3枚なことと似ているのだと思います。

 

エンレイソウ(撮影地 新潟県) 花被片が6つあるユリ ミヤマスカシユリ(栽培品)
エンレイソウ(新潟県で撮影) 花被片が6つのミヤマスカシユリ(栽培品)

 このエンレイソウは、残念ながら小鹿野高校の敷地内には生育していません。しかし、自然豊かな小鹿野町にはエンレイソウが生育していて、二子山や両神山で見たと記憶しています。この地域で地域とともに学ぶ小鹿野高校にとっては、校歌の「この庭」は小鹿野町と、とらえることもできると思います。生徒の皆さん、この自然豊かな小鹿野の地で叡智の花を咲かせてみましょう。

スミレの生存戦略

小鹿野高校に着任して最初に目に留まった植物は、ノジスミレでした。ノジスミレは3月下旬には満開でした。そのほか、敷地内にはコスミレやタチツボスミレなど3種以上のスミレが生育しています。みなさんはスミレの花をよく見たことがありますか?

 ここでみなさんが、混乱しないように説明します。「スミレ」という場合、2通りの意味があります。1つ目は、スミレが「スミレ」という種(しゅ)をさす場合です。この場合は、Viola mandshurica がスミレです。観察したところ、学校の敷地内では見ませんでした。2つ目は、スミレがスミレ属( Viola )とかスミレ科( Violaceae )といった種より上位の分類群、「スミレのなかま」を指している場合です。「スミレ」が3種生育という場合は、スミレ属とかスミレ科を指しているということになります。ここでは、スミレを「スミレのなかま」としてお話しします。

 さてスミレを観察したところ、種類によって多少のばらつきはあると思いますが、開花後、3週間後ぐらいで種を飛ばします。果実は3つのパーツからなり、熟すと機械的にはじけて種子が1m程度飛びます。しかし、実際にはもっと離れた場所でも生えていることがあります。どうしてだと思いますか?同じようなことがスミレ以外の植物、例えばカタクリなどでも知られています。スミレの種子にはエライオソームと呼ぶ脂質を含む栄養のある部分があります。このエライオソームはアリにとってごちそうです。アリはエライオソーム目当てで種子を運び、最終的にはエライオソームだけを使います。つまりスミレはアリにごちそうをあげて、種子を運ばせているのです。このことは自分で移動できないスミレがアリを利用して増えるというしたたかな生存戦略を持っているということです。

3つに割れ種子を散布するノジスミレの果実

エライオソーム(白い部分)が付いているノジスミレの種子

 またスミレの果実に注目すると、意外なことにスミレの果実はスミレの「花」を見なくなった6月になっても作られています。これはどういうことでしょう。みなさんは、花というと花びらがあってきれいなものをイメージすると思います。菫色などの言葉があるとおり、花びらがきれいな色をしていると思うでしょう。しかし、スミレのすごいところは、それだけではありません。スミレの花には、みなさんが見たとき花が咲いていると認識する花、「開放花」と、咲いていても気が付かない花、「閉鎖花」の2種類があります。

 開放花は、花びら(花弁)があり、昆虫が受粉のために花に来ます。昆虫に対して開放している花ということです。一方、閉鎖花ですが、こちらは見た目にはつぼみのように見えます。こちらは花弁もなく、昆虫の助けを借りず、自動的におしべが伸びて花粉をめしべに付けて受粉します。

 では、これらの2種類の花があることにどんな意味があるでしょう?開放花では、昆虫の助けが必要ですが、ほかの個体の花とも受粉できるので、次の世代に遺伝的多様性を伝えることになります。閉鎖花では、機械的に自家受粉を行うので、効率よく種子を作り、散布することができます。つまり、開放花で遺伝的多様性を高め、閉鎖花では効率よく種子を作るわけです。ここにもスミレのしたたかな生存戦略が見えてきます。

 みなさんが気にも留めないような生物にもいろいろと面白いストーリーがあるのです。そんな足元の植物にも目を向けてみませんか。

ノジスミレの開放花(3月下旬~4月上旬)

ノジスミレの下を向く閉鎖花と

散布間近で上を向く果実(6月下旬)