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校長Blog

11月 紅葉

 秋になると植物の葉が色づきます。一般的に紅葉と呼んでいる現象です。この時期に紅葉する樹木は、主に落葉樹という生活スタイルの植物です。紅葉した後、葉を落として冬を過ごすことになります。これに対して常緑樹というものがあります。こちらは1年を通して葉が付いているように見える樹木です。落葉樹は落葉している時期によって夏緑性、冬緑性と分けることができます。秋に紅葉しているのは夏緑性の樹木ということになります。

 紅葉と漢字で書き「もみじ」と読ませることもあります。古語に「もみいづ」という動詞があります。これは、葉をもむことによって色が出てくるというような意味で、これが「もみじ」の語源だと言われたりしています。古今和歌集にもこの言葉が使われている和歌があるようです。

 「もみじ」というと、紅葉する現象のほかに、カエデ属のことを指す場合があります。カエデ属は、「かへるで」つまり、カエルの手という意味と言われますが、多くのカエデ属の葉は、掌状に切れ込んでいることで、この形がカエルの手に似ているとされたようです。「かへるで」という語は万葉集の和歌でも使われているそうです。

小鹿野高校に植栽されているカエデ

小鹿野高校に植栽されているカエデ

 

 カエデ属は、庭園にもよく植えられていて、赤や黄色に美しく紅葉します。カエデ属の材は様々なものに利用されます。樹液はメープルシロップの材料にもなります。秩父地域ではイタヤカエデなどの樹液から作った、いわゆるメープルシロップを使ったお菓子などを生産しています。メープルシロップというとカナダのものが有名で、カナダの国旗にはその材料が採れるサトウカエデの葉がデザインされていますので、皆さんも見たことがあると思います。県産のメープルシロップは、イタヤカエデのなかまから採った樹液を原料にしていると聞いたことがあります。

 さて、紅葉の仕組みについて説明します。詳しいことはよくわかっていない部分がありますが、通常2つのパターンで説明されます。その前に共通することですが、落葉の時期が近づくと、葉柄の基部、つまり葉の付け根付近に離層という細胞構造ができます。そして時期が来ると、ここからぽろりと葉が落ちるようになります。この離層が形成される状況は、葉の維持に大きなコストがかかるときです。植物は、基本的に光合成をして炭水化物を生成しますが、その産み出すエネルギーと生活に必要なエネルギーの収支のバランスで消費が生産を上回るときには、葉を落として耐えたりすることになります。

 

落葉が近いメタセコイア

 

 最初に、黄色く色づく現象ですが、落葉を準備する過程で、光合成色素であるクロロフィルが分解されていきます。そうすると、葉を緑色に見せていたクロロフィルが減るので、緑色が薄くなるわけです。そのとき、葉に残っているカロテン、ニンジンのオレンジ色のもとです(ニンジンは英語でcarrotですが、caroteneと関係がある言葉だと思います)。そのほかの色素などまとめてカロテノイドといいますが、これらの色が見えてくるのが、黄色に色づく仕組みとされています。

 

黄色く色づいたイチョウ

 

 次に赤く色づく現象ですが、離層が形成されてクロロフィルが分解されるときにアントシアニンという赤や紫色系の色素(6月のスミレの生存戦略で紹介したノジスミレの花の色はこの色素によるものです)が作られ赤く色づくというものです。

 

小鹿野高校に植栽されているドウダンツツジ

 

 紅葉は植物が低温に適応した仕組みの一つです。植物にとって、低温と乾燥は生育に不適な状況です。生育に不利な状況である冬期に、葉を落として生育に適した時期まで耐え忍ぶわけです。

 明日から12月、1年の締めくくりの時期が近づいてきていますが、生徒の皆さんも来年度に向けて、葉が黄色く色づくように、内面の良さを際立たせたり、葉が赤く色づくように、新たな可能性を高めてもらいたいと思います。

10月 校章とイチョウ

10月23日は、小鹿野高校の開校記念日でした。今月は校章に関連したお話です。本校は、昭和28年に埼玉県立秩父農業高等学校小鹿野分校が埼玉県立小鹿野高等学校として設置されスタートしました。校章のデザインは、そのときに選定されたものです。2枚のイチョウの葉の上に高校の「高」が描かれ、ひし形のものは、地元である小鹿野町の町章を形どったものです。本校の母体であった埼玉県立秩父農業高等学校は、現在は秩父農工科学高等学校になっていますが、その校章にもイチョウがデザインされています。

 小鹿野高校の校章

小鹿野高校の校章

 

 このようにイチョウは、本校のシンボルではありますが、学校の敷地内に植えられているのはわずかに1本だけです。生徒のみなさんはどこに植えられているか知っていますか?敷地の内の国道側に注目してください。事務室の近くです。

 小鹿野高校内のイチョウ

本校敷地内唯一のイチョウ

 

 さて、イチョウとはどんな植物でしょうか?これから秋が深まると黄色く色づき、我々の目を楽しませてくれます。また、実のぎんなんは、茶わん蒸しには欠かせない食材だと思います。

 このイチョウは裸子植物という分類群の植物です。裸子植物にはソテツやマツ、スギなども含まれます。裸子植物なので花を付けますが、どれもみなさんが普通に花としてみている花とは違い、花とイメージしないような花を持つ植物です。

 裸子植物のイチョウのなかまは、古生代ペルム紀に現れ、中生代に栄え新生代になって今のイチョウ( Gingko biloba )だけが生き残りました。今は世界各地に植栽されていますが、もともとは中国には自生していた、まさに「生きている化石」です。小鹿野高校のある小鹿野町には「おがの化石館」があります。そこに問い合わせたところ、残念ながら小鹿野町からイチョウの化石は見つかっていないとのことでした。

 話は戻って、イチョウは雌雄異株の植物です。性別が雄の個体と雌の個体があるということです。つまり、実であるぎんなんは雌の木に着くことになります。しかし、雄の木に実ができたという事例もあります。

 私は以前、「オハツキイチョウ」という現象を調査しました。県内だと春日部市の寺院でも知られていますが、山梨県の身延市には「オハツキイチョウ」が3本あり、そのうちの2本は国指定天然記念物になっています。写真からわかるように葉のふちに小さいぎんなんが付いているので「お葉付き」イチョウというわけです。これら国指定天然記念物の2本は雄と雌で別々の場所に植えられています。当然、雄の木にはぎんなんは付かないのですが、葉のふちに何かついている感じでオハツキイチョウであることがわかります。時期を変えて2度調査に行ったのですが、2回目の調査で雄個体にぎんなんができていることが見られました。調査から帰って調べると、その1年前くらいだったと記憶していますが、この雌の個体に実ができたという報文を見つけました。やはり、地元でよく見ている研究者にはかなわないと痛感しました。みなさん身の回りのことに注目して何か調べると思わぬ発見に出会うかもしれません。

 

オハツキイチョウ(雌木)

オハツキイチョウのぎんなん(写真中央 葉のふち)と通常のぎんなん(写真右) 

 

9月の植物 ヒガンバナ

 暑かった夏が終わり朝晩かなり涼しくなってきました。「昔から暑さ寒さも彼岸まで」などと言いますが、今年もそのとおりになってきました。「お彼岸」は年に2回あり、秋分の日と春分の日のそれぞれその前後3日間を合わせた7日間が「お彼岸」です。

 さて、9月の中下旬ごろ、田のあぜなどで赤い花を咲かせる植物が目立ちます。その名もヒガンバナです。秋の彼岸のころ咲くことから標準和名がヒガンバナです。とても目立つ花なので、県内でもヒガンバナがたくさん咲く観光地は有名です。このヒガンバナは、もともと中国原産で日本に帰化した外来植物です。

 ヒガンバナは少し変わった生活をしています。ヒガンバナの1年を簡単に説明すると、開花している9月ごろには葉がありません。冬が近づくと葉を出します。その葉で光合成を行い、地下部にある鱗茎(りんけい)に養分を蓄えます。翌年の夏の前までに葉を枯らし彼岸のころまで地上部は見えません。これの繰り返しです。

 

路傍に咲くヒガンバナ

路傍に咲くヒガンバナ

 

 ところで外来植物のヒガンバナはどうして日本に渡ってきたと思いますか?花がきれいだから持ち込まれたのでしょうか?その答えは、鱗茎の養分に注目したからとなります。鱗茎(りんけい)とは皆さんがよく使う言葉でいうと「球根」です。ヒガンバナは、鱗茎を食べて飢饉のときの生き残るための救荒植物(きゅうこうしょくぶつ)として持ち込まれたようです。しかしいろいろと試したくなる私でも、ヒガンバナは食べたことがありません。なぜならヒガンバナは有毒植物として知られているからです。ヒガンバナのなかまはLycoris という属名の植物です。Lycoris にはリコリンという毒物が含まれています。飢饉のときなど、どうしても食べなければならない状況で、リコリンを取り除き食べたようです。十分に取り除くことができなければ健康に害があったことでしょう。そんなことから、ヒガンバナが救荒植物として使われたのは、新たな救荒植物、例えばサツマイモなどが普及すると使われなくなったと思われます。

 ヒガンバナは外来植物にも関わらず、注目されてきた植物といえます。その理由は、数多くの和名があることです。標準和名はヒガンバナで、これは図鑑にのっている日本全国共通の呼び名です。しかし、「方言」にあたる和名などたくさん知られています。例えば「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」は有名です。皆さんの御両親や祖父母の皆さんに聞いてみると、意外な呼び名があるかもしれません。私が育った県北地域でも住んでいるところで呼び名が少しずつ違っていました。私が小さいころ、近所のシニア世代の方は、「はっかけばばあ」と呼んでいたことを記憶しています。良い印象の言葉ではないですね。後に文献などで知りましたが、ヒガンバナの方言には「はっかけばな」という和名がありました。おそらく花が咲くときに葉を欠く、つまり「葉欠け花」と推測できます。そうすると、「はっかけばばあ」は「葉が欠ける」が「歯が欠ける」になり、「ばな」が「ばばあ」となったのではないかと納得しました。

 このように調べてみると知らないことがたくさんあります。皆さんが取り組む探究活動によって、今まで知らなかった事実に到達するかもしれません。研究することは大変おもしろいことです。皆さんもこれからの生活で自分でいろいろなことを調べることの基本を総合的な探究の時間の取組で身に付けることができると思います。探究活動にじっくり取り組んで下さい。

葛藤とはクズとフジが絡み合った状態

 夏休みが終わりが近づき、クズの花が咲き始めています。今月は、クズにまつわる話を紹介します。

 葛藤という言葉を聞いたことがありますか。イメージとしては2つまたはそれ以上の対立するものが心の中などにあり、どれか一つを選ぶことをすごく迷っている状態などが葛藤だと思います。

 葛藤は「葛」と「藤」の字から成り立っていますが、どちらも部首が「くさかんむり」なので植物に関係ある字であることに気が付くでしょう。「葛」は、「かずら」とも読み、この場合は、つる植物全般を指すような言葉です。また、「くず」とも読みます。「くず」と読ませる場合は、クズという植物のことになります。一方「藤」は、「ふじ」と読めば、フジという植物を指しています。また、「とう」と読ませる場合は、つる性の木本植物の茎のことを指します。似たような言葉に蔓という言葉があります。「まん」「つる」と読みますが、こちらは草本植物つまり、つる性の草の茎のことをさしている言葉です。今では「とう」よりも「つる」という言葉が一般的だと思います。ここまでで大体わかると思いますが、葛藤とは、つる植物が絡み合う様を表していて、心ががんじがらめになっている状態ということです。

 さて、ここからは植物のクズとフジの話です。クズもフジもマメ科のつる植物です。クズは、斜面や空き地などに生えるつる性多年性の草本で繁殖力が旺盛です。その繁殖力の高さから国際保護連合(IUCN)が定めた世界の侵略的外来種リストワースト100にも選ばれているほどです。しかしマイナス面ばかりではなく、クズは古来、様々な使われ方をしてきました。例えば、根に含まれるでんぷんを葛粉と言い、葛切りや葛餅などの材料にしました。同じく根を乾燥させたものを葛根といい、漢方薬「葛根湯」の原料の一つです。私は、春に伸び始めた新芽をぽきっと折り、天ぷらにして食べたこともあります。

フェンスを覆いつくすクズ クズの花

 日本のフジ属には、フジ(ノダフジ)とヤマフジがあります。寺院などに植えてあることも多いフジは花序(花の集まりのこと)が長く伸び、1mにもなります。それに対し、ヤマフジは自然に埼玉県で生育していないようですが、花序は10~20cm程度。つるの巻き方にも違いがあり、フジは、向かって右から左に巻き、ヤマフジは反対に左から右に巻きます。そのため花が咲いていない時期でも区別できます。フジは観賞用に栽培されるほか、つるが木質で丈夫なため、つるを編んで道具を作ったり、茎の繊維を使い布にして使っていたりしたことがあるそうです。花を天ぷらにして食べたこともあります。毒があると書いてあったりするwebページもあるので、食べるなら自己責任でチャレンジしてください。


向かって右から左に巻くフジ

 

 8月も残すところあと2日です。生徒の皆さんは新学期にさまざまな葛藤があるかもしれませんが、困ったことがあれば職員に相談してください。下の写真くらいの絡み方なら何とか解消できそうですね。絡み合ったつるをほぐし、すっきりとした気持ちで新学期を迎えられることを期待しています。

 

クズとフジが絡み合った様子 まさに葛藤か

小鹿野高校校歌にある「叡智の花」

 7月20日に1学期の終業式がありました。夏季休業を前に私からは、4月の入学式や始業式で生徒の皆さんに話した内容を振り返り、夏休み中にもいろいろとチャレンジしてもらいたいというようなお話をしました。そのほか終業式では、みんなで校歌を歌いました。小鹿野高校の校歌には、「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」というフレーズがあります。今月の校長Blogは、校歌の歌詞にある植物についてのお話です。

 当然、「叡智の花」はたとえだと思いますが、念のため「叡智の花」とよばれる植物があるのか調べてみたところ、花言葉が「叡智」という植物が見つかりました。

 その前にまず「叡智」という言葉が難しいので、こちらも調べてみました。小学館 精選版 日本国語大辞典によると「叡智」には以下の2つの意味が書かれていました。

 1 すぐれた知恵。真理を洞察する精神能力

 2 哲学で直面する理論的実践的諸問題を効果的に処理する知能

  このことから校歌のフレーズ「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」は、生徒の皆さんが小鹿野高校ですぐれた知恵、真理に迫る心を身に着けることを念じたものといえるでしょう。

 さて、ここからは、実在する植物としての「叡智の花」についてのお話です。キーワードを「叡智」と「花言葉」でウェブページを検索してみると、「知恵」が花言葉の植物も出てきますが、「叡智」は「すぐれた知恵」となっていますので、花言葉が「知恵」の植物は除外しました。すると叡智の花は、エンレイソウという植物でした。6月の校長Blog「スミレの生存戦略」でも書きましたが、同じようにエンレイソウというと、エンレイソウ属と、エンレイソウという名前の種(しゅ)を指す場合があります。エンレイソウ属はTrillium と属名を書きます。Trilliumという属名の命名者は、スウェーデンの博物学者、リンネです。この属名はスウェーデン語trilling「三つぞろいの」の転化と思われるという内容が小学館ランダムハウス英和大辞典第2版に書かれています。リンネは、生物の名まえを属名と種小名で表す二名法を始めたことでも知られています。二名法は現在も学名の書き方に受け継がれています。

 左下の写真を見ると何が「三つぞろいの」かわかると思います。葉の付き方が特徴的です。それに加えてエンレイソウは、地味な花ですが、花びら(花被片)も3枚のように見えます。エンレイソウはユリのなかまです。ユリの花は、右下のミヤマスカシユリの写真だとよくわかりますが、内花被3枚、外花被3枚で花びらが6枚に見えます。しかし、エンレイソウでは目立つ花被は3枚ですね。花というものは葉が変化したものですので、葉が3枚なことと似ているのだと思います。

 

エンレイソウ(撮影地 新潟県) 花被片が6つあるユリ ミヤマスカシユリ(栽培品)
エンレイソウ(新潟県で撮影) 花被片が6つのミヤマスカシユリ(栽培品)

 このエンレイソウは、残念ながら小鹿野高校の敷地内には生育していません。しかし、自然豊かな小鹿野町にはエンレイソウが生育していて、二子山や両神山で見たと記憶しています。この地域で地域とともに学ぶ小鹿野高校にとっては、校歌の「この庭」は小鹿野町と、とらえることもできると思います。生徒の皆さん、この自然豊かな小鹿野の地で叡智の花を咲かせてみましょう。