校長室から

校長あいさつ

着任のごあいさつ

 

令和5年4月1日に小鹿野高等学校に着任しました校長の植田 雅浩(うえだ まさひろ)です。教職員一丸となって何事も生徒のために取り組んでまいります。保護者の皆様をはじめとする地域の皆様、卒業生の皆様、そのほか関係者の皆様、今後も、本校への御支援、御協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

 

小鹿野高校で夢を実現しよう

  

本校は、創立70年を超える歴史と伝統のある学校です。校訓である「和やかに 厳しく」のもと、生徒の皆さんが将来、社会・地域の発展に貢献できるよう人間力を高めるべく職員一丸で取り組んでいます。

 卒業生は12,000人を超え、特に地元、小鹿野町において行政、教育、産業など、町の各所で卒業生が多数活躍しています。

 中学生の皆さん、貴重な高校時代を自然に恵まれた小鹿野高校で伸び伸びと過ごしてみませんか。多彩な学習ができる本校には、皆さんの夢を実現したり可能性を引き出したりするものがきっとあります。

 

本校の強み1 単位制・総合学科の高等学校

単位制・総合学科高校としても20年を超す実績があります。総合学科では普通教育と専門校育を総合的に学びます。生徒ひとりひとりが必修科目と幅広い選択科目から、主体的に自分のオリジナルな時間割をつくって夢の実現に取り組んでいます。

 

本校の強み2 少人数学級編成・少人数授業の実施

1学年3学級規模ですが、4学級の少人数学級を編成しています。加えて、少人数授業を実施する科目や選択科目が多く、生徒と教職員との距離が近く、とても和やかな雰囲気で学ぶことができます。

 

本校の強み3 先進的な地域連携を行っている学校

本校は令和元年度に埼玉県の県立学校として始めてコミュニティ・スクールとなりました。コミュニティ・スクールとして学校、保護者の皆様、地域の皆様が協働して生徒たちの豊かな成長を支え、地域とともにある学校づくりを進めています。特に小鹿野町とは、包括連携協定を結んでいて様々な事業を協働しています。

 

 

weblog

校長Blog

2025年2月 シュロ

今日は2月28日です。昼間はとても暖かく、グラウンドに出てみましたが、陸上競技部や野球部が活動していました。そのほかグラウンドにはテントウムシが数個体見られました。確実に春が近づいています。ムシなど冬の間姿を見なかった生き物たちが地上に出てくる日を啓蟄(けいちつ)と言います。今年は3月5日だそうです。これからまだ寒い日もあるかと思いますが、暖かくなってきました。

 

グラウンドにいたテントウムシ

グラウンドにいたテントウムシ


 少し前の話になりますが、昨年の12月に「葉を編んで遊ぼう」というタイトルで小学生を対象に公開講座を実施しました。小学生の皆さんが保護者などの同伴者と一緒に参加し、葉を編んで楽しい時間を過ごしました。編むために用意した植物は、シュロです。このイベントでは、バッタを編むことを一番の目標にして、カタツムリなど編んで楽しんでいただきました。

 

シュロの葉を編んで作ったバッタ

シュロの葉を編んで作ったバッタ


 シュロ(Trachycarpus fortunei (Hook.) H.Wendl.)は、最も北まで分布するヤシ科の植物です。鳥が果実を食べ種子を散布します。もともと南日本には自然分布していたともいわれていますが、現在は分布が北に拡大しています。埼玉県内でも平地から山地まで生育していて、小鹿野町内でも生えているのを見かけます。今の時期は、山の木々は落葉しているものが多く、常緑のシュロはとても見つけやすいです。特に利用されなくなった里山のやぶ状の林などに生えているのをよく見かけます。小鹿野高校の敷地内にも植えたものではないようですが、立派なシュロが生えています。それらの多くは、フェンス沿いに生えていますので、果実を食べた鳥がフェンスの辺りでふんと共に種子を散布したことが想像できます。

 

フェンス沿いに生えているシュロ

フェンス沿いに生えているシュロ


 葉身が長く、古い葉先が垂れるワジュロは、木の高さが10mにもなります。庭木として植えられる事もあるトウジュロは、ワジュロより葉身が硬く短く、古い葉でも真っすぐのままです。樹高もワジュロのように高くなりません。また、ワジュロとトウジュロの雑種は、ワトウジュロなどとよばれています。ワジュロとトウジュロの中間の形になります。校地内に生育しているシュロは、葉が硬いのでワジュロではないように感じます。

 

シュロの木が使われている撞木

シュロの木が使われている撞木

 

 シュロは有用な植物で、樹皮は繊維に富み、棕梠縄(しゅろなわ)として使ったり、棕櫚箒(しゅろぼうき)として使われてきました。幹が真っ直ぐなので橦木(しゅもく)としても使われています。12月に訪れた西国札所の観音正寺の鐘楼では、シュロの木が使われていました。橦木はシュロ以外の木も使われます、コンクリートなどで棒状にしたものが使われていることもあります。シュロが使われている場合は、断面を見ても年輪が見えません。これが一つの目安になります。秩父地域には34所の札所などあります。近くの寺院に釣鐘があったら撞木を見るとシュロが使われているところがあるかもしれません。来週は2年次生の探究活動の発表がありますが、歴史を訪ねながら自然にも眼を向ける、またその逆に自然について調べながら人の営みにも注目するなど、幅広く様々な角度からみることが探究の視点として重要だと思います。

2025年1月 ヘビノネゴザ

年が明けてもう1ヶ月が過ぎようとしています。日差しも力強くなり、春の訪れを感じられるようになってきました。小鹿野高校の玄関から校長室の前までに4本のロウバイが植えてあり、昨年の12月から咲いています。確実に春が近づいています。

 

年末から咲いていたロウバイ

昨年末から咲いていたロウバイ


 今月は干支と植物についてお話しします。今年の干支は、「巳」で、ヘビです。日本に生息するヘビには、食用になっているエラブウミヘビなどを含むコブラ科やクサリヘビ科のハブのなかまなど南西諸島などに生息しているものもが多く、県内からは、次のアオダイショウ、シマヘビ、ジムグリ、タカチホヘビ、シロマダラ、ヤマカガシ、ヒバカリ、ニホンマムシの8種が記録されています。これらは、埼玉県レッドデータブック動物編2018に全て掲載されているので、絶滅の恐れがある生物といえます。

サキシマハブ(2004年8月 西表島)

サキシマハブ 2004年8月 西表島で撮影

 

話は日本の干支に戻りますが、昨年の干支、辰年の「龍」または「竜」は架空の生物ですが、それ以外は実在する動物が対応しています。そして植物の和名にもそれらの動物の名前が使われるものがあります。例えば、干支の順に挙げると、ネズミモチ、ウシハコベ、トラノオシダ、ウサギギク、ヘビイチゴ、ウマスズクサ、ヒツジグサ、サルトリイバラ、ケイトウ、イヌワラビ、イノデという具合です。辰年の「龍」もリュウビンタイがありますので、十二支の動物が名前に付く植物は全て揃っていると言えるでしょう。

ヘビノネゴザ 2003年12月 寄居町で撮影

ヘビノネゴザ 2003年12月 寄居町で撮影

 

 今年の干支の動物ヘビが和名に付いている植物にヘビノネゴザというシダ植物があります。ヘビノネゴザは、秩父地域ではよく目にするシダ植物です。葉の大きさは、葉身の長さは40cm程度にまでなる夏緑性の植物です。このヘビノネゴザにはちょっと変わった性質があります。カドミウムなどの重金属を吸収、蓄積するのです。そのため、昔はヘビノネゴザが生えている場所を頼りに鉱床を探したそうです。そのため、別名のカナヤマシダとかカナケシダとよばれることもあります。

 ところでみなさんは和同開珎について学びましたか?和同開珎は秩父市黒谷から掘られた銅をもとに708年に造られた貨幣です。これが日本最初に流通した貨幣と言われています。もしかしたらこの銅の産地を見つけるのにヘビノネゴザが役立ったのかもしれません。黒谷の和銅遺跡周辺ではヘビノネゴザが特にたくさん生えている印象はあまりないですが、以前訪れた栃木県の足尾銅山にはヘビノネゴザがたくさん生えていたと記憶しています。昔の人は、このように自然を観察し役立つことを見つけていたのだと思います。みなさんも自然に眼を向けると何か発見できるかもしれません。

2024年12月 植物の冬の過ごし方

 12月25日から学校が冬休みになりました。2学期には文化祭や校外学習など学校行事も色々とありました。暑かった9月が嘘のように日に日に寒くなってきました。12月20日の朝には、通勤の途中で秩父の山々が薄っすらと白くなっているのがきれいに見えました。冠雪です。県内の平野部でも初雪が観測されています。生徒の皆さんは通学が大変な季節になりました。

 

両神山20241220

下小鹿野からの両神山 12月20日撮影

 

 植物にとっても冬は厳しい季節です。植物は生育に適さない時期をどう過ごすかは、その地域の気候にあったものになる傾向があります。同じ属の種類でも温暖な地域の種と冷涼な地域に生育する種では、生活の仕方が違うこともあるのです。このことから生活の仕方は、適応であることがわかります。植物の適応の仕方は、冬の時期につくる芽の位置など、生育に適さない時期の過ごし方に注目して分類されたラウンケルの生活形がよく知られています。その中から学校で見られる植物の生活形をあげてみます。

 冬芽(休眠芽)の位置が地表から明らかに離れている地上植物は、落葉性のイチョウや常緑性のモミなど、多くの場合は木になる植物をイメージすれば良いと思います。

 常緑樹であるシラカシ

学校に植えてある常緑のシラカシの冬芽

 

植栽されているドウダンツツジ

赤い冬芽が目立つ落葉性のドウダンツツジ


地上植物より冬芽が低く、地面より高いものは、地表植物といい、高山などに生育する低木や、草本でも茎が冬も残り、そこに芽が着く植物が、地表植物になります。

 

キク

茎に冬芽ができているキク


セイヨウタンポポのように地表面に冬芽をつくるものは、半地中植物と言います。

 タンポポのロゼット

自転車置き場の近くに生えている外来のタンポポと思われる個体


テッポウユリのように地中に休眠芽をつくるものは、地中植物です。球根がある植物は地中植物です。また、アサガオのように本体を枯らして種子で冬を過ごす植物もあり、一年生植物という生活形です。
 植物は、乾燥と低温への適応しながら形を変えてきたと考えられます。例えば生育に適さない時期を過ごすとき、落葉したり、からだが小さかったり、種子で過ごしたりと様々な適応をしていることがわかります。そうすると、一年生植物は徹底した省エネをしていることになり、進化しているように思えます。そんなことを考えて外に出ると、庭の植物も今までと違って見えるかもしれません。

2024年11月 スミレ再び

霧が出た11月27日の朝

11月下旬になって朝晩の冷え込みが増しています。学校から見える山の木々も色付いています。小鹿野も本格的な冬を迎えます。11月は、霧の発生も多く、先日は、雨上がりで学校に着いたとき、霧が出ていました。校章のデザインに使われているイチョウの葉も黄色みが増しています。

11月27日に咲いていたコスミレ

11月27日に咲いていたコスミレ

 

 11月の下旬に校地内を歩いていたら、コスミレの花を見つけました。皆さんはスミレのなかまは、春に咲くというイメージが強いかもしれませんが、2023年6月の校長ブログ「スミレの生存戦略」にも書きましたが、花弁がない閉鎖花は、春以降も長い期間見ることができます。そして、秋になると、春のように花弁がある開放花を付けることがあります。花弁がある開放花には、自花受粉ではなく他の花の花粉で受粉する機能があります。そのことによって遺伝的な多様性が受け継がれるのです。スミレ属の花は虫媒花で、ハチのなかまなどがポリネーター(花粉媒介者)のようです。同じときに開放花を付けている複数の種類が近くに生えていると、ポリネーターは、花の蜜が目当てで花を訪れます。そして花粉を体に付けて次の花に行きます。そのときポリネーターはスミレの種類はあまり気にしないと思いますので、結果として異なる種間で交雑し、雑種ができます。スミレ属には多くの雑種が記録されています。下の写真は、左からヒカゲスミレ、中央がスワキクバスミレとよばれるヒカゲスミレとヒゴスミレの雑種で、右がヒゴスミレです。ヒカゲスミレは、単葉で葉は切れ込みませんが、ヒゴスミレの切れ込む葉を受け継ぎ、スワキクバスミレは中間型になっています。

 

左からヒカゲスミレ、スワキクバスミレ(雑種)、ヒゴスミレ

左の葉からヒカゲスミレ、スワキクバスミレ(雑種)、ヒゴスミレ


通常、別種の個体間の交雑でできた雑種の個体は、有性生殖による繁殖が正常ではないことが多く、雑種であることは、そのことからも推測できます。例えば、下の写真はスミレとヒゴスミレを交雑して種から育てた雑種の個体です。葉にはスワキクバスミレのように切れ込みがあります。花の色はヒゴスミレが白色で、スミレはいわゆるすみれ色ですが、両種の雑種は、スミレの花に似た色です。この雑種のスミレは毎年4月下旬によく花が咲きます。これを15年以上観察してますが、今まで一度も種子ができていません。

 

スミレとヒゴスミレの雑種スズキスミレ

スミレとヒゴスミレの雑種スズキスミレ

 

しかし、植物の場合、交雑したあとに倍数化が起こることによって新しい種が形成される可能性があります。もしかすると皆さんが気が付かないところで新たな種が形成されているかもしれません。スミレはこのようにおもしろい植物です。県内にもスミレの雑種は生えています。いつか新しい種ができるかもしれません。そんなことを思いながら観察することは楽しいことです。

2024年10月 旅するチョウが集まる花 

 2024年10月は、Tsuchinshan-ATLAS彗星が観られるというニュースがあり、久しぶりの明るい彗星が見られるかもしれないと楽しみにしていました。しかし今月は晴れの日が少なく、観測可能なタイミングで月が満月に近く、観測のコンディションはあまり良くなかったようです。それでも3度、写真に収めることができました。下の写真は10月14日に荒川のスーパー堤防上にある公園で日没後1時間くらいの南西の空を写したものです。肉眼では確認できませんでしたが、スマートフォンのカメラは、彗星を捉えていました。今のスマートフォンのカメラは、本当に高性能だと驚かされました。

  Tsuchinshan-ATLAS彗星(C/2023 A3)

Tsuchinshan-ATLAS彗星(2024.10.14 18:05 鴻巣市大芦 荒川パノラマ公園)

 

 国立天文台のウェブサイトによると、この彗星は、2023年1月に発見され、地球に最接近したのは、10月13日とのこと。放物線に近い軌道で、この後は太陽系の外に出て地球の近くにはもう戻って来ないと考えられるそうです。本当に良いタイミングで撮影できました。

 さて今月は、その彗星を見て、旅するチョウ アサギマダラと吸蜜のため訪れる植物について書くことにしました。アサギマダラについてウェブページを検索すると、「旅する蝶」とか「渡りをする蝶」といった言葉が目につきます。アサギマダラは、チョウの大きさを比較するときに使われる前翅長が、ナミアゲハや国蝶のオオムラサキなどと同程度である大型のチョウです。マーキング調査のデータが蓄積されていています。マーキング調査とは、成虫の翅に採集地、採集年月日、採集者の情報などをマーキングして放し、その個体が再捕獲されたとき、最初のデータとの比較で移動にかかった時間や距離を調べられるというものです。私も以前、マーキング済みの個体を見たことがあります。鹿児島県立博物館研究報告第43号に「アサギマダラの長距離移動に関する気象学的考察」という論文があり、そこには、移動距離が2,500kmにもなった個体があったことや、飛翔速度の推定値など算出したことなど書かれていました。昆虫と気象の関係という視点も面白いと思いました。

 アサギマダラの生活史で植物との関係性は研究されていて、産卵する植物や、吸蜜する植物が何なのかよく調べられています。秋は、大移動の時期で、このころに花で吸蜜する様子が観察できます。アサギマダラがよく観察される植物のひとつがフジバカマです。フジバカマをウェブページ検索するといろいろなところに植栽されていることがわかります。小鹿野町でも、おがの化石館の前に植えてありました。2回見に行きましたが、残念ながらアサギマダラを見ることができませんでした。

 

おがの化石館に植栽されているフジバカマ

おがの化石館に植栽されているフジバカマ

 

フジバカマ以外の吸蜜植物でよく知られているのは、県内でも生育を確認していて特定外来生物に指定されているミズヒマワリです。以前撮影したことがある県内の生育地に向かいました。以前の場所は河川改修でよくわからなかったのですが、川岸に近づくとミズヒマワリが生えていて大きなチョウがひらひらと白い花に来ていました。アサギマダラです。

 

川岸に生育する特定外来生物 ミズヒマワリ

川岸に生育する中南米原産の特定外来生物 ミズヒマワリ

 

ミズヒマワリの蜜を吸いに来るアサギマダラ

ミズヒマワリの花に蜜を吸いに来るアサギマダラ

 

 秩父地域にもフジバカマは各所で植えられています。11月になっても公園などに植栽されたフジバカマでアサギマダラを見るチャンスがあります。アサギマダラのマーキング調査は誰でも参加できるそうです。アサギマダラに限らず皆さんの身の周りの自然に目を向けると新しい発見があるかもしれません。自然豊かな秩父地域で学ぶ皆さんには色々なことを体験していってもらいたいと願っています。

2024年9月 生物季節観測

 暑さ寒さも彼岸までということわざがあります。これは、残暑も秋の彼岸ごろには和らぎ、残寒も春の彼岸のころには終わり暖かくなるというような意味です。今年は、9月に入っても気温が35℃を越す日が何日もありましたが、そのことわざのとおり下旬には、急に涼しくなりました。

 生物の生活のサイクルは、気温の影響を受けています。今年は、ヒガンバナの開花が1週間程度遅れたように感じます。こういうことも日ごろデータを取っていれば比較ができますが、残念ながらヒガンバナの開花日を記録していませんでした。

 

ヒガンバナ(2024年9月28日 長瀞町)

ヒガンバナ(2024年9月28日 長瀞町)

 

 気象庁では、生物季節観測という植物の開花や昆虫や鳥類の鳴き声をその年に初めて確認した日をデータとして蓄積しています。春になるとサクラの開花情報がニュースになりますが、これらがデータとして残されています。私は、以前は記録していたのですが、ニイニイゼミの鳴き始めの日に注目していました。埼玉県の平野部には、5月ごろ鳴くハルゼミの後、夏になると最初に鳴き始めるのがニイニイゼミです。ニイニイゼミの鳴き始めが梅雨明けの目安になっているように感じます。以前記録を取っていたときに、梅雨明けの天気図の気圧配置が安定し始めるころ鳴き始める傾向があり目安にしてきました。話はその少し変わります。小鹿野高校周辺では、最後まで鳴くセミは、何でしょうか?お盆の前から鳴き始めるツクツクボウシかミンミンゼミのどちらかだと思います。セミに限りませんが、実際に自分見たり聞いたりしたことを毎年記録しておくと季節の変化に敏感になると思います。

2024年8月 植物がある暮らし

 今月は、植物がある暮らしとして、食用や薬用など以外での植物と人との関わりについてのお話しします。今月27日に行われた令和6年度関東地区福祉研究発表会の福祉研究部門に本校2年次生2名が埼玉県代表として出場しました。これに先だって行われた県の予選で最優秀賞に選ばれたためです。当日は堂々と研究発表を行い、優良賞をいただくことができました。大変喜ばしいことです。研究テーマは、「花はQOLを向上させるか」でした。花=植物と言っていいでしょう。QOLは、Quality Of Lifeの頭文字から作られている言葉で、「生活の豊かさ」とか文字どおり、「生活の質」という意味です。つまり植物が生活の質を向上させるかという研究です。生徒たちは、仮説を立てて、検証し、考察するという流れで、花は、花に興味を持つ人のQOLを向上させるという結論でした。この調査研究のためのアンケートに回答いただいた皆さんには、おかげさまで生徒たちが研究成果をまとめることができたことを、この場を借りてお礼いたします。

  さて、植物がある暮らしというと、私は園芸という文化を思い浮かべます。例えば、寺社や城などの古い建造物には、素晴らしい庭園があることも植物が人々の心の安定などに効果があることと関係していることでしょう。庭は、自然や世界観を庭園という空間に作り出しているものだと思います。また、華道は園芸とは違いますが、活花も忘れてはいけません。話は、園芸に戻ります。現在では、園芸店やホームセンターなどに行くと様々な植物が売られていますし、ウェブサイトでもいろいろな方法で植物を手に入れることができます。

 園芸というと、いろいろな植物が栽培されていますが、歴史的にはオランダにおけるチューリップの流行などが有名です。このことは、私が持っている英和辞典にもtulipomaniaという単語で載っています。オランダでは、異国の花で魅力的なチューリップに熱狂し、価格が高騰して、そのあとに価格の暴落が起きています。このことは、経済の分野でも研究されているようです。日本でも江戸時代には、様々な植物が栽培され、同じようないわゆる園芸バブルも起きています。その一つが、マツバランというシダ植物で起きています。マツバランは、暖かい地域に生育する植物で、埼玉県でも自生を確認しています。

 

マツバラン(2004年11月 沖縄県八重山郡の西表島)

 

マツバランは、形態的に変わっています。シダ植物や種子植物など維管束植物の多くは、からだが根と茎と葉からできていますが、マツバランのからだは、地下茎と地上茎でできているといえます。つまり、地下部には根がなく、地上部には、茎に小さな突起がありますが、葉脈にあたるものがなく、通常の葉とは違うイメージです。まさに「根も葉もない」植物です。

 

マツバランの地下茎

根がないマツバランの地下部の茎

 

そのマツバランは、シダ植物であり、胞子で増殖するため、街中の植え込みの中に生えていることもあります。これは、庭園木の移植とともに移動したものか、それらに由来して胞子で増えたものかもしれません。そういった自然に生えた個体の中には、形が変わった個体や白色や黄色の斑入りの個体が見つかることがあります。それらは、その珍しさからコレクションの対象になりました。江戸時代にその人気がわかるエピソードとして、1鉢の「松葉蘭」が、土地付きの家と交換されたことなど、伝わっています。今でも当時人気があった個体が受け継がれているものがあります。マツバランは、草ですが、地下茎で増え、それを株分けしながら維持してきました。ある意味100年以上生きていることになります。

  

温室内で増殖したマツバランの変わった個体(縮緬という芸の個体) 

 

 このように洋の東西に関係なく、人は珍しいものを持ちたいという気持ちがあるようです。植物は、癒しを与えてくれますが、今の園芸ブームを見ていると、コレクションのためのストレスもありそうです。高い金額で手に入れても、しばらくすると、それよりも安く売買されているなど趣味の植物では、比較的よくあることのようです。私は、植物に興味がありますが、忙しいときは、例えば、春にウメの花が咲いたことになかなか気が付かなかったことなどありました。忙しいという字はりっしんべんに亡くすですから、心を亡くした状態ということでしょうか。植物に限らず、自然に意識を向ける心の余裕を常に持ちたいですね。

2024年7月 夏の花

みなさんは夏の植物というと何を思い浮かべますか?その前に夏をどうとらえるか確認します。今年、令和6年(2024)のカレンダーでは、8月7日が立秋です。暦の上では立秋の日から秋ということにはなりますが、ここでは生徒の皆さんの夏休みの期間は、夏としましょう。そうすると私の場合は、夏といえばユリがイメージの筆頭です。皆さんが思い浮かべるのは、アサガオですか?それともヒマワリですか?

 私は子供のころ、夏休みに出かけたときに山地の道路沿いに咲く白いヤマユリの花や海岸の岩場で咲いていたオレンジ色のスカシユリの花を見たことなどなどが印象に残っています。また、高校生のとき甲子園に野球観戦に行き、高速道路沿いに咲くタカサゴユリと思われる白い花を見たことも夏の記憶として今でも思い出されます。

 さて、ユリというと、ユリ科ユリ属が真のユリということになりますが、この時期に咲くウバユリなどユリ科でもユリ属ではない「ユリ」もあります。ウバユリは、葉の形もユリ属とは大きく違いウバユリ属に分類されています。

 

ウバユリ 2024年寄居町

ウバユリ(寄居町 2024年7月30日)

 

 ユリと人との関わりですが、日本では、古くは古事記や万葉集に「由利・由理・由里・百合」の記述があります。しかし、残念なことにそれが今のユリなのか、どんな種類のユリなのかを確かめる術はありません。

 

万葉集にある「姫由理」は、ヒメユリか?(四国カルスト 2005年8月)

万葉集の「姫由理」はヒメユリ?(四国カルスト 2005年8月)

 

 食用としてのユリも調べました。本校の図書館にあった「つれづれ日本食物史 第一巻(川上行藏)」によると、少なくとも平安時代初期にはユリを食べていたと書かれていました。そこには、食用とされたのは、オニユリとありました。オニユリは茎にむかごをつけて、種子よりも効率よく増殖するので、オニユリを食べたのだという記述に納得しました。「百合根」は基本的に1個体に1つですから、特別に扱われてきたのかもしれません。そうでなければ、食べ尽くされたかもしれません。小正月の飾りに使われてきたことなど、民俗の研究では記録もあります。また、「百合根」が特別な味でないことも幸いしたのでしょう。しかし、ニホンザルにとってはご馳走なのでしょうか?秩父にある石灰岩地の山、武甲山では、絶滅危惧種のミヤマスカシユリの「百合根」をニホンザルが食べてしまうという話を聞いたことがあります。

 

植栽されているオニユリ

 植栽されているオニユリ(寄居町 2024年7月30日 )

 

 ところで現在では、ユリは食用よりも鑑賞用に栽培されているようです。農林水産省の統計によると、令和5年度の埼玉県の切り花のユリの出荷量は全国1位です。県内有数の産地である深谷市では、日本に生育するヤマユリやスカシユリの仲間などを交配した園芸品種のユリが栽培されています。先日、本校も取り組んでいる高等学校DX加速化推進事業の視察のために訪れた深谷市にある埼玉工業大学では、ユリの切り花を出荷するときに廃棄してきた茎の切り落とした部分を活用して和紙を作ることに取り組んでいる事を知りました。不要なものを活用することは、環境に負荷がかからないのであれば良いことかもしれません。本校も竹あかり部が、モウソウチクのような太いタケの稈(かん:イネ科の中空な茎のことの)に穴を開けて中に入れた照明を灯す「竹あかり」を作っています。そのことによって管理されなくなった竹林によるいわゆる竹害の防止にも多少の貢献をしています。

2024年6月 東洋のガラパゴス

 6月20日(木)から6月22日(土)まで修学旅行の引率で沖縄本島に行きました。例年沖縄の梅雨明けはこのころで、天候が気掛かりでしたが、沖縄に着いた20日に沖縄地方が梅雨明けしたとみられると発表がありました。旅行期間中、雨に降られることなく、南国の日差しの中、生徒達はいつもと違う経験ができた良い修学旅行になったと思います。

  さて、沖縄県を含むいわゆる琉球弧の地域は、「東洋のガラパゴス」などと呼ばれます。ここでいう琉球弧は、鹿児島県の奄美地方から沖縄県の先島地方までの島々です。ガラパゴスとは、赤道直下にあるエクアドルのガラパゴス諸島を指しています。琉球弧は島々からなり、その中で一番面積が大きい島が沖縄本島です。そのほか、奄美大島や西表島などが面積の大きい島としてあります。

 では、なぜ沖縄が「東洋のガラパゴス」と呼ばれるのでしょうか。「東洋の」については、沖縄が東洋に位置するからです。次に「ガラパゴス」については、ガラパゴス諸島に似ているところがあるからです。まず、沖縄もガラパゴス諸島も島であることです。加えて、どちらも周辺の他の地域にはいない固有の生物が多いことが共通点といえるでしょう。

 修学旅行のコースでは、なかなか固有の生物を見ることはできませんが、宿泊した沖縄本島の北部は山原(やんばる)と呼ばれ、沖縄本島では、自然豊かで生物多様性が高い地域です。移動中の車窓から山原の森林の様子を見ることができました。

 

1999年6月撮影 山原の森林

1999年6月15日撮影 山原(沖縄県国頭郡国頭村)の森林

 

 山原の森林は、小鹿野の周辺で見られる自然林とかなり様子が違います。なぜなら沖縄県と埼玉県の小鹿野町とでは気候が違うからです。気候による植生の違いは、気温と降水量が主な要因といえます。先に降水量ですが、沖縄気象台の1991年から2020年のデータによると、那覇の年間降水量は、平均2161mm、秩父市の平均年間降水量は、秩父測候所の1991年から2020年までのデータによると平均1375.3mmで、那覇の降水量は小鹿野町の隣の秩父市のおよそ1.5倍ということです。次に気温ですが、冬の気温が沖縄県と秩父地域では大きく異なることは、いうまでもありません。気温の違いは生育する植物の違いにつながることも皆さんはよく知っている事だと思います。気温と植生の関係を表す指標に「暖かさの指数」と言うものがあります。これは、植物が生育可能とされる気温を5℃として、各月の平均気温との差を求め、それらを合計したものです。この暖かさの指数が高いと暖かいということになります。沖縄県那覇市は、全ての月の平均気温が5℃を超えており、暖かさの指数が205.8になりました。それに対して小鹿野町の隣の秩父市では12月から2月までの平均気温は5℃よりも低く、暖かさの指数は、108.2でした。これらの数値によると、那覇は亜熱帯、秩父が暖温帯にあたることになります。暖温帯であれば、常緑広葉樹が優占する照葉樹林が発達する気候ですが、現在目にするのは、落葉広葉樹が優占する夏緑樹林です。これは過去30年のデータをもとに計算したため起きているということです。地球温暖化とよく言われますが、確かに平均気温が高くなっているのでしょう。今の植生ができたのは、より冷涼なときであり、植物が分布を広げるスピードは緩やかなので、現在の気候が続いてもすぐには照葉樹林に変わることはないのです。

 話が難しくなりましたが、気温が違うことで、沖縄県の植生は埼玉県とかなり違っていることを2年次生の皆さんは見ることができたでしょうか?また沖縄本島でも、南部は太平洋戦争で植生が失われましたが、北部は豊かな森林が広がっているところがたくさんあります。修学旅行では、山原の自然豊かな場所には行きませんでしたが、沖縄本島の最北部にはヤンバルクイナも生息しています。卒業してから改めて出かけてみると良いと思います。また、宿泊した宿はすぐ前が海で、海岸近くに生える植物もたくさん見られました。2年次生の皆さんが撮影した写真にも沖縄らしい植物がたくさん写っていることと思います。それ以外にも偶然面白いものが写っているかもしれません。楽しかった修学旅行を振り返りながら探してみてください。

 

アダンなどが生える海岸の植生

アダンなどが生える海岸の植生(沖縄海洋博公園前の海岸)

 

砂浜に生えるグンバイヒルガオ

グンバイヒルガオ(沖縄海洋博公園前の海岸)

2024年5月 外来生物

 今月は、各地で増えている外来生物についてお話しします。最初は、今の時期にとても目立つオオキンケイギクから紹介します。オオキンケイギクは、河川敷や道端や空き地、庭などで鮮やかで橙黄色の頭花を咲かせているキク科の植物です。北アメリカ原産の多年生草本で、高さは70cmほどになります。緑化用や鑑賞用として1880年台に導入されたそうです。繁殖は旺盛で、日本の侵略的外来種ワースト100にもあげられています。平成16年に制定された特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の特定外来生物に指定されています。オオキンケイギクは、河原などで大きく育ち、ほかの在来の特に草本植物の生育場所を奪ってしまうことが大きな問題となっています。

オオキンケイギク

空き地のフェンス近くに生えていたオオキンケイギク

 

オオキンケイギク

オオキンケイギクの頭花

 

 また、学校の近くの水路には、ユーラシア大陸原産のオオカワヂシャが生育していました。こちらも多年生草本で、河川や湿地、水田などに生え、高さ1m程になります。根茎で栄養生殖して在来の植物の生育場所を奪ってしまいます。さらに問題なのは、日本在来のカワヂシャと交雑していることです。在来のカワヂシャの生育地などで雑種が見つかることがあり、西日本では場所によっては、交雑個体に置き換わりつつあるそうです。雑種個体は、花を咲かせて発芽する種子を作れなくても、多年生で大きく育ち、やがて在来のカワヂシャの繁殖を圧倒していきます。

水路に生えていたオオカワヂシャ

水路に生えていたオオカワヂシャ

 

葉の縁に鋸歯が目立たないオオカワヂシャ

 

 特定外来生物には、植物以外にも多くの生物が指定されています。例えば、哺乳類のアライグマ、千葉県に定着しているキョンや小鹿野町高校でもさえずりがよく聞こえる鳥類のガビチョウ、魚類ではオオクチバスやコクチバス、サクラ属を食害する昆虫のクビアカツヤカミキリなどがよく知られている特定外来生物だと思います。

 ここで、外来種とはどのような生物か改めて確認します。外来種とは、もともとその地に生態系がありますが、そこに新たにヒトによって持ち込まれてくる生物です。一般的には、比較的近年に国外から持ち込まれたものをイメージしがちですが、例えば、もともとは西日本だけに生育または生息していて、人の活動によって東日本に分布を広げた種も、国内由来の外来生物となります。コイはそういう例の一つです。コイは各地で放流されていますが、この場合も外来生物といえます。そしてコイが放流された場所では、在来のコイとの交雑、他の魚類や淡水性の無脊椎動物や淡水性の植物や藻類などを食べてしまうことなどが起きています。文献で水生植物や車軸藻類の生育記録がある池や沼でも、コイが放流されたところでは、そのような種が絶滅していることがあります。似たようなケースとして、釣りの対象であるヘラブナという魚がいます。ヘラブナは琵琶湖・淀川水系の固有種であるゲンゴロウブナの系統の魚で、これも養殖されて各地で放流されています。ヘラブナ自体の環境への影響は、不明とされていますが、放流された釣り場は、富栄養化が進み、淡水性植物や藻類への影響がないとはいえないでしょう。因果関係は不明ですが、かつて県内でも多くの車軸藻類が生育していた池沼がヘラブナ釣り場になっていて、車軸藻類の生育が確認できなくなったところがあります。

 このようにいろいろな状況があって、人の活動も止めることもできないので、外来生物の問題解決は大変です。奥が深い問題ですから探究してみることも良いかと思います。

 外来生物が在来の生育環境を奪ってしまう、食べてしまう、在来の種と遺伝的に混ざってしまうなど、様々な問題があります。日本の豊かな生態系を後世に残すために、今を生きている我々の責任ある行動が不可欠です。そのためには、自然のことについて関心を持ち、色々と知ることが大切です。自然豊かな小鹿野の地で学ぶ生徒の皆さんもぜひ、身近な自然に目を向けてください。