校長室から

校長あいさつ

着任のごあいさつ

 

令和5年4月1日に小鹿野高等学校に着任しました校長の植田 雅浩(うえだ まさひろ)です。教職員一丸となって何事も生徒のために取り組んでまいります。保護者の皆様をはじめとする地域の皆様、卒業生の皆様、そのほか関係者の皆様、今後も、本校への御支援、御協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

 

小鹿野高校で夢を実現しよう

  

本校は、創立70年を超える歴史と伝統のある学校です。校訓である「和やかに 厳しく」のもと、生徒の皆さんが将来、社会・地域の発展に貢献できるよう人間力を高めるべく職員一丸で取り組んでいます。

 卒業生は12,000人を超え、特に地元、小鹿野町において行政、教育、産業など、町の各所で卒業生が多数活躍しています。

 中学生の皆さん、貴重な高校時代を自然に恵まれた小鹿野高校で伸び伸びと過ごしてみませんか。多彩な学習ができる本校には、皆さんの夢を実現したり可能性を引き出したりするものがきっとあります。

 

本校の強み1 単位制・総合学科の高等学校

単位制・総合学科高校としても20年を超す実績があります。総合学科では普通教育と専門校育を総合的に学びます。生徒ひとりひとりが必修科目と幅広い選択科目から、主体的に自分のオリジナルな時間割をつくって夢の実現に取り組んでいます。

 

本校の強み2 少人数学級編成・少人数授業の実施

1学年3学級規模ですが、4学級の少人数学級を編成しています。加えて、少人数授業を実施する科目や選択科目が多く、生徒と教職員との距離が近く、とても和やかな雰囲気で学ぶことができます。

 

本校の強み3 先進的な地域連携を行っている学校

本校は令和元年度に埼玉県の県立学校として始めてコミュニティ・スクールとなりました。コミュニティ・スクールとして学校、保護者の皆様、地域の皆様が協働して生徒たちの豊かな成長を支え、地域とともにある学校づくりを進めています。特に小鹿野町とは、包括連携協定を結んでいて様々な事業を協働しています。

 

 

weblog

校長Blog

葛藤とはクズとフジが絡み合った状態

 夏休みが終わりが近づき、クズの花が咲き始めています。今月は、クズにまつわる話を紹介します。

 葛藤という言葉を聞いたことがありますか。イメージとしては2つまたはそれ以上の対立するものが心の中などにあり、どれか一つを選ぶことをすごく迷っている状態などが葛藤だと思います。

 葛藤は「葛」と「藤」の字から成り立っていますが、どちらも部首が「くさかんむり」なので植物に関係ある字であることに気が付くでしょう。「葛」は、「かずら」とも読み、この場合は、つる植物全般を指すような言葉です。また、「くず」とも読みます。「くず」と読ませる場合は、クズという植物のことになります。一方「藤」は、「ふじ」と読めば、フジという植物を指しています。また、「とう」と読ませる場合は、つる性の木本植物の茎のことを指します。似たような言葉に蔓という言葉があります。「まん」「つる」と読みますが、こちらは草本植物つまり、つる性の草の茎のことをさしている言葉です。今では「とう」よりも「つる」という言葉が一般的だと思います。ここまでで大体わかると思いますが、葛藤とは、つる植物が絡み合う様を表していて、心ががんじがらめになっている状態ということです。

 さて、ここからは植物のクズとフジの話です。クズもフジもマメ科のつる植物です。クズは、斜面や空き地などに生えるつる性多年性の草本で繁殖力が旺盛です。その繁殖力の高さから国際保護連合(IUCN)が定めた世界の侵略的外来種リストワースト100にも選ばれているほどです。しかしマイナス面ばかりではなく、クズは古来、様々な使われ方をしてきました。例えば、根に含まれるでんぷんを葛粉と言い、葛切りや葛餅などの材料にしました。同じく根を乾燥させたものを葛根といい、漢方薬「葛根湯」の原料の一つです。私は、春に伸び始めた新芽をぽきっと折り、天ぷらにして食べたこともあります。

フェンスを覆いつくすクズ クズの花

 日本のフジ属には、フジ(ノダフジ)とヤマフジがあります。寺院などに植えてあることも多いフジは花序(花の集まりのこと)が長く伸び、1mにもなります。それに対し、ヤマフジは自然に埼玉県で生育していないようですが、花序は10~20cm程度。つるの巻き方にも違いがあり、フジは、向かって右から左に巻き、ヤマフジは反対に左から右に巻きます。そのため花が咲いていない時期でも区別できます。フジは観賞用に栽培されるほか、つるが木質で丈夫なため、つるを編んで道具を作ったり、茎の繊維を使い布にして使っていたりしたことがあるそうです。花を天ぷらにして食べたこともあります。毒があると書いてあったりするwebページもあるので、食べるなら自己責任でチャレンジしてください。


向かって右から左に巻くフジ

 

 8月も残すところあと2日です。生徒の皆さんは新学期にさまざまな葛藤があるかもしれませんが、困ったことがあれば職員に相談してください。下の写真くらいの絡み方なら何とか解消できそうですね。絡み合ったつるをほぐし、すっきりとした気持ちで新学期を迎えられることを期待しています。

 

クズとフジが絡み合った様子 まさに葛藤か

小鹿野高校校歌にある「叡智の花」

 7月20日に1学期の終業式がありました。夏季休業を前に私からは、4月の入学式や始業式で生徒の皆さんに話した内容を振り返り、夏休み中にもいろいろとチャレンジしてもらいたいというようなお話をしました。そのほか終業式では、みんなで校歌を歌いました。小鹿野高校の校歌には、「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」というフレーズがあります。今月の校長Blogは、校歌の歌詞にある植物についてのお話です。

 当然、「叡智の花」はたとえだと思いますが、念のため「叡智の花」とよばれる植物があるのか調べてみたところ、花言葉が「叡智」という植物が見つかりました。

 その前にまず「叡智」という言葉が難しいので、こちらも調べてみました。小学館 精選版 日本国語大辞典によると「叡智」には以下の2つの意味が書かれていました。

 1 すぐれた知恵。真理を洞察する精神能力

 2 哲学で直面する理論的実践的諸問題を効果的に処理する知能

  このことから校歌のフレーズ「青春の叡智の花は この庭に今こそ開く」は、生徒の皆さんが小鹿野高校ですぐれた知恵、真理に迫る心を身に着けることを念じたものといえるでしょう。

 さて、ここからは、実在する植物としての「叡智の花」についてのお話です。キーワードを「叡智」と「花言葉」でウェブページを検索してみると、「知恵」が花言葉の植物も出てきますが、「叡智」は「すぐれた知恵」となっていますので、花言葉が「知恵」の植物は除外しました。すると叡智の花は、エンレイソウという植物でした。6月の校長Blog「スミレの生存戦略」でも書きましたが、同じようにエンレイソウというと、エンレイソウ属と、エンレイソウという名前の種(しゅ)を指す場合があります。エンレイソウ属はTrillium と属名を書きます。Trilliumという属名の命名者は、スウェーデンの博物学者、リンネです。この属名はスウェーデン語trilling「三つぞろいの」の転化と思われるという内容が小学館ランダムハウス英和大辞典第2版に書かれています。リンネは、生物の名まえを属名と種小名で表す二名法を始めたことでも知られています。二名法は現在も学名の書き方に受け継がれています。

 左下の写真を見ると何が「三つぞろいの」かわかると思います。葉の付き方が特徴的です。それに加えてエンレイソウは、地味な花ですが、花びら(花被片)も3枚のように見えます。エンレイソウはユリのなかまです。ユリの花は、右下のミヤマスカシユリの写真だとよくわかりますが、内花被3枚、外花被3枚で花びらが6枚に見えます。しかし、エンレイソウでは目立つ花被は3枚ですね。花というものは葉が変化したものですので、葉が3枚なことと似ているのだと思います。

 

エンレイソウ(撮影地 新潟県) 花被片が6つあるユリ ミヤマスカシユリ(栽培品)
エンレイソウ(新潟県で撮影) 花被片が6つのミヤマスカシユリ(栽培品)

 このエンレイソウは、残念ながら小鹿野高校の敷地内には生育していません。しかし、自然豊かな小鹿野町にはエンレイソウが生育していて、二子山や両神山で見たと記憶しています。この地域で地域とともに学ぶ小鹿野高校にとっては、校歌の「この庭」は小鹿野町と、とらえることもできると思います。生徒の皆さん、この自然豊かな小鹿野の地で叡智の花を咲かせてみましょう。

スミレの生存戦略

小鹿野高校に着任して最初に目に留まった植物は、ノジスミレでした。ノジスミレは3月下旬には満開でした。そのほか、敷地内にはコスミレやタチツボスミレなど3種以上のスミレが生育しています。みなさんはスミレの花をよく見たことがありますか?

 ここでみなさんが、混乱しないように説明します。「スミレ」という場合、2通りの意味があります。1つ目は、スミレが「スミレ」という種(しゅ)をさす場合です。この場合は、Viola mandshurica がスミレです。観察したところ、学校の敷地内では見ませんでした。2つ目は、スミレがスミレ属( Viola )とかスミレ科( Violaceae )といった種より上位の分類群、「スミレのなかま」を指している場合です。「スミレ」が3種生育という場合は、スミレ属とかスミレ科を指しているということになります。ここでは、スミレを「スミレのなかま」としてお話しします。

 さてスミレを観察したところ、種類によって多少のばらつきはあると思いますが、開花後、3週間後ぐらいで種を飛ばします。果実は3つのパーツからなり、熟すと機械的にはじけて種子が1m程度飛びます。しかし、実際にはもっと離れた場所でも生えていることがあります。どうしてだと思いますか?同じようなことがスミレ以外の植物、例えばカタクリなどでも知られています。スミレの種子にはエライオソームと呼ぶ脂質を含む栄養のある部分があります。このエライオソームはアリにとってごちそうです。アリはエライオソーム目当てで種子を運び、最終的にはエライオソームだけを使います。つまりスミレはアリにごちそうをあげて、種子を運ばせているのです。このことは自分で移動できないスミレがアリを利用して増えるというしたたかな生存戦略を持っているということです。

3つに割れ種子を散布するノジスミレの果実

エライオソーム(白い部分)が付いているノジスミレの種子

 またスミレの果実に注目すると、意外なことにスミレの果実はスミレの「花」を見なくなった6月になっても作られています。これはどういうことでしょう。みなさんは、花というと花びらがあってきれいなものをイメージすると思います。菫色などの言葉があるとおり、花びらがきれいな色をしていると思うでしょう。しかし、スミレのすごいところは、それだけではありません。スミレの花には、みなさんが見たとき花が咲いていると認識する花、「開放花」と、咲いていても気が付かない花、「閉鎖花」の2種類があります。

 開放花は、花びら(花弁)があり、昆虫が受粉のために花に来ます。昆虫に対して開放している花ということです。一方、閉鎖花ですが、こちらは見た目にはつぼみのように見えます。こちらは花弁もなく、昆虫の助けを借りず、自動的におしべが伸びて花粉をめしべに付けて受粉します。

 では、これらの2種類の花があることにどんな意味があるでしょう?開放花では、昆虫の助けが必要ですが、ほかの個体の花とも受粉できるので、次の世代に遺伝的多様性を伝えることになります。閉鎖花では、機械的に自家受粉を行うので、効率よく種子を作り、散布することができます。つまり、開放花で遺伝的多様性を高め、閉鎖花では効率よく種子を作るわけです。ここにもスミレのしたたかな生存戦略が見えてきます。

 みなさんが気にも留めないような生物にもいろいろと面白いストーリーがあるのです。そんな足元の植物にも目を向けてみませんか。

ノジスミレの開放花(3月下旬~4月上旬)

ノジスミレの下を向く閉鎖花と

散布間近で上を向く果実(6月下旬)

 

竹あかりの「タケ」

 先日、たけのこご飯を食べました。たけのこは春の味覚などといわれますが、とてもおいしいですね。たけのこは、タケの新芽です。1日で数10cmといった驚異的な成長をします。今回はタケについてのお話です。

 さて、生物学の分野では、生きものの名まえを日本語で書く場合は、カタカナで表記することになっています。その場合、竹はタケとなります。タケはイネ科の植物で、木と草の性質をあわせ持っています。タケは硬く大きく育ち、竹林ができるほどです。これは木の性質に近いといえます。また、先日のニュースで植物園のタケが開花したと報道がありました。60年とか120年に一度咲くなど言われています。花が咲くと枯れる種類もあり、一生で1回のみ花が咲くことから草の性質に近いといわれます。このようなことから、タケは木か草かという話になると、タケは木でも草でもない、タケはタケとなります。

 ところで、竹といえば皆さんは何を思い浮かべますか? 春の味覚、たけのこでしょうか、タケはざるの材料にもなります。秩父地域ではそばが作られています。ざるそばを思い浮かべる人もいるかもしれません。

 また、文学に興味がある人は古典の「竹取物語」を思い浮かべるかもしれません。かぐや姫のお話と言えば知らない人は少ないと思います。「竹取物語」は、平安時代にできた日本最古の物語と言われているようです。竹から生まれたかぐや姫が美しく成長し、様々な人から求婚されるが断り、最後は月に帰っていくというお話ですね。

 タケに入っていることを考えると節と節の間にある程度の大きさが必要です。中国やインドシナなどに生育するダイマチクという種類のタケが植物園に植えてあることがあります。これは、節と節の間が60cm、稈(かん ※樹木で幹にあたる部分をイネ科では稈という)の直径が30cm、高さが30mにもなるような世界最大のタケです。そんな大きなタケならば、それこそ生まれた赤子が中に入ってしまうほどです。

 一方で、日本の神話「古事記」や「日本書紀」に「すくなひこなのみこと」というとても小さい神様があります。「古事記」や「日本書紀」のお話から推測すると体長は数cmです。これなら日本のタケでも十分に入ることができる大きさといえます。

 大きいタケと小さいタケ、どちらのタケがモデルだったのでしょうか?インターネットのサイトを検索すると竹取物語と似たような話は中国にもあるようです。タケのなかまはアジアに広く分布しています。ますますわからなく、昔から気になっていることです。

 さて、小鹿野高校では小鹿野町と連携して竹あかりという素敵な取組を行っています。下の写真は、竹あかり同好会の生徒たちが作った竹あかりです。竹あかり同好会に入っていない人もぜひ注目してください。

私と「小鹿野」との縁

私は大学で生物について学びました。そして小学校、中学校、高等学校の教員免許を取り、高等学校の教員になりました。高等学校の教員を目指すようになったきっかっけが、「小鹿野」にあったのです。

 今の小鹿野町の地域には、両神山、二子山など標高1,000mを超す山があります。両神山は構成する岩石の多くがチャートの岩峰で、登山道には鎖場がある山です。二子山はいわゆる双耳峰で、西岳と東岳の2つの山頂があり、それぞれ石灰岩が露出している格好いい山です。

 私が大学3年生のときに、研究室の4年生の学生たちとこれらの山に調査に行きました。当時、研究室では石灰岩地の植物群落について研究していました。研究室での調査の後も一人で調査に行きました。そのとき、出会いがありました。ある植物との出会いです。これをきっかけにして、私はフィールドワークの面白さに目覚め、高校の教員への道を歩んでいました。そんなわけで、私にとって「小鹿野」というところは特別なところです。

 生徒の皆さんも「小鹿野」という素晴らしい地で学んでいるのですから、地域のいろいろな自然や歴史などに触れてみてください。皆さんの一生に大きく影響するような思いがけない出会いがあるかもしれません。