校長室から

校長あいさつ

着任のごあいさつ

 

令和5年4月1日に小鹿野高等学校に着任しました校長の植田 雅浩(うえだ まさひろ)です。教職員一丸となって何事も生徒のために取り組んでまいります。保護者の皆様をはじめとする地域の皆様、卒業生の皆様、そのほか関係者の皆様、今後も、本校への御支援、御協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

 

小鹿野高校で夢を実現しよう

  

本校は、創立70年を超える歴史と伝統のある学校です。校訓である「和やかに 厳しく」のもと、生徒の皆さんが将来、社会・地域の発展に貢献できるよう人間力を高めるべく職員一丸で取り組んでいます。

 卒業生は12,000人を超え、特に地元、小鹿野町において行政、教育、産業など、町の各所で卒業生が多数活躍しています。

 中学生の皆さん、貴重な高校時代を自然に恵まれた小鹿野高校で伸び伸びと過ごしてみませんか。多彩な学習ができる本校には、皆さんの夢を実現したり可能性を引き出したりするものがきっとあります。

 

本校の強み1 単位制・総合学科の高等学校

単位制・総合学科高校としても20年を超す実績があります。総合学科では普通教育と専門校育を総合的に学びます。生徒ひとりひとりが必修科目と幅広い選択科目から、主体的に自分のオリジナルな時間割をつくって夢の実現に取り組んでいます。

 

本校の強み2 少人数学級編成・少人数授業の実施

1学年3学級規模ですが、4学級の少人数学級を編成しています。加えて、少人数授業を実施する科目や選択科目が多く、生徒と教職員との距離が近く、とても和やかな雰囲気で学ぶことができます。

 

本校の強み3 先進的な地域連携を行っている学校

本校は令和元年度に埼玉県の県立学校として始めてコミュニティ・スクールとなりました。コミュニティ・スクールとして学校、保護者の皆様、地域の皆様が協働して生徒たちの豊かな成長を支え、地域とともにある学校づくりを進めています。特に小鹿野町とは、包括連携協定を結んでいて様々な事業を協働しています。

 

 

weblog

校長Blog

2024年6月 東洋のガラパゴス

 6月20日(木)から6月22日(土)まで修学旅行の引率で沖縄本島に行きました。例年沖縄の梅雨明けはこのころで、天候が気掛かりでしたが、沖縄に着いた20日に沖縄地方が梅雨明けしたとみられると発表がありました。旅行期間中、雨に降られることなく、南国の日差しの中、生徒達はいつもと違う経験ができた良い修学旅行になったと思います。

  さて、沖縄県を含むいわゆる琉球弧の地域は、「東洋のガラパゴス」などと呼ばれます。ここでいう琉球弧は、鹿児島県の奄美地方から沖縄県の先島地方までの島々です。ガラパゴスとは、赤道直下にあるエクアドルのガラパゴス諸島を指しています。琉球弧は島々からなり、その中で一番面積が大きい島が沖縄本島です。そのほか、奄美大島や西表島などが面積の大きい島としてあります。

 では、なぜ沖縄が「東洋のガラパゴス」と呼ばれるのでしょうか。「東洋の」については、沖縄が東洋に位置するからです。次に「ガラパゴス」については、ガラパゴス諸島に似ているところがあるからです。まず、沖縄もガラパゴス諸島も島であることです。加えて、どちらも周辺の他の地域にはいない固有の生物が多いことが共通点といえるでしょう。

 修学旅行のコースでは、なかなか固有の生物を見ることはできませんが、宿泊した沖縄本島の北部は山原(やんばる)と呼ばれ、沖縄本島では、自然豊かで生物多様性が高い地域です。移動中の車窓から山原の森林の様子を見ることができました。

 

1999年6月撮影 山原の森林

1999年6月15日撮影 山原(沖縄県国頭郡国頭村)の森林

 

 山原の森林は、小鹿野の周辺で見られる自然林とかなり様子が違います。なぜなら沖縄県と埼玉県の小鹿野町とでは気候が違うからです。気候による植生の違いは、気温と降水量が主な要因といえます。先に降水量ですが、沖縄気象台の1991年から2020年のデータによると、那覇の年間降水量は、平均2161mm、秩父市の平均年間降水量は、秩父測候所の1991年から2020年までのデータによると平均1375.3mmで、那覇の降水量は小鹿野町の隣の秩父市のおよそ1.5倍ということです。次に気温ですが、冬の気温が沖縄県と秩父地域では大きく異なることは、いうまでもありません。気温の違いは生育する植物の違いにつながることも皆さんはよく知っている事だと思います。気温と植生の関係を表す指標に「暖かさの指数」と言うものがあります。これは、植物が生育可能とされる気温を5℃として、各月の平均気温との差を求め、それらを合計したものです。この暖かさの指数が高いと暖かいということになります。沖縄県那覇市は、全ての月の平均気温が5℃を超えており、暖かさの指数が205.8になりました。それに対して小鹿野町の隣の秩父市では12月から2月までの平均気温は5℃よりも低く、暖かさの指数は、108.2でした。これらの数値によると、那覇は亜熱帯、秩父が暖温帯にあたることになります。暖温帯であれば、常緑広葉樹が優占する照葉樹林が発達する気候ですが、現在目にするのは、落葉広葉樹が優占する夏緑樹林です。これは過去30年のデータをもとに計算したため起きているということです。地球温暖化とよく言われますが、確かに平均気温が高くなっているのでしょう。今の植生ができたのは、より冷涼なときであり、植物が分布を広げるスピードは緩やかなので、現在の気候が続いてもすぐには照葉樹林に変わることはないのです。

 話が難しくなりましたが、気温が違うことで、沖縄県の植生は埼玉県とかなり違っていることを2年次生の皆さんは見ることができたでしょうか?また沖縄本島でも、南部は太平洋戦争で植生が失われましたが、北部は豊かな森林が広がっているところがたくさんあります。修学旅行では、山原の自然豊かな場所には行きませんでしたが、沖縄本島の最北部にはヤンバルクイナも生息しています。卒業してから改めて出かけてみると良いと思います。また、宿泊した宿はすぐ前が海で、海岸近くに生える植物もたくさん見られました。2年次生の皆さんが撮影した写真にも沖縄らしい植物がたくさん写っていることと思います。それ以外にも偶然面白いものが写っているかもしれません。楽しかった修学旅行を振り返りながら探してみてください。

 

アダンなどが生える海岸の植生

アダンなどが生える海岸の植生(沖縄海洋博公園前の海岸)

 

砂浜に生えるグンバイヒルガオ

グンバイヒルガオ(沖縄海洋博公園前の海岸)

2024年5月 外来生物

 今月は、各地で増えている外来生物についてお話しします。最初は、今の時期にとても目立つオオキンケイギクから紹介します。オオキンケイギクは、河川敷や道端や空き地、庭などで鮮やかで橙黄色の頭花を咲かせているキク科の植物です。北アメリカ原産の多年生草本で、高さは70cmほどになります。緑化用や鑑賞用として1880年台に導入されたそうです。繁殖は旺盛で、日本の侵略的外来種ワースト100にもあげられています。平成16年に制定された特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の特定外来生物に指定されています。オオキンケイギクは、河原などで大きく育ち、ほかの在来の特に草本植物の生育場所を奪ってしまうことが大きな問題となっています。

オオキンケイギク

空き地のフェンス近くに生えていたオオキンケイギク

 

オオキンケイギク

オオキンケイギクの頭花

 

 また、学校の近くの水路には、ユーラシア大陸原産のオオカワヂシャが生育していました。こちらも多年生草本で、河川や湿地、水田などに生え、高さ1m程になります。根茎で栄養生殖して在来の植物の生育場所を奪ってしまいます。さらに問題なのは、日本在来のカワヂシャと交雑していることです。在来のカワヂシャの生育地などで雑種が見つかることがあり、西日本では場所によっては、交雑個体に置き換わりつつあるそうです。雑種個体は、花を咲かせて発芽する種子を作れなくても、多年生で大きく育ち、やがて在来のカワヂシャの繁殖を圧倒していきます。

水路に生えていたオオカワヂシャ

水路に生えていたオオカワヂシャ

 

葉の縁に鋸歯が目立たないオオカワヂシャ

 

 特定外来生物には、植物以外にも多くの生物が指定されています。例えば、哺乳類のアライグマ、千葉県に定着しているキョンや小鹿野町高校でもさえずりがよく聞こえる鳥類のガビチョウ、魚類ではオオクチバスやコクチバス、サクラ属を食害する昆虫のクビアカツヤカミキリなどがよく知られている特定外来生物だと思います。

 ここで、外来種とはどのような生物か改めて確認します。外来種とは、もともとその地に生態系がありますが、そこに新たにヒトによって持ち込まれてくる生物です。一般的には、比較的近年に国外から持ち込まれたものをイメージしがちですが、例えば、もともとは西日本だけに生育または生息していて、人の活動によって東日本に分布を広げた種も、国内由来の外来生物となります。コイはそういう例の一つです。コイは各地で放流されていますが、この場合も外来生物といえます。そしてコイが放流された場所では、在来のコイとの交雑、他の魚類や淡水性の無脊椎動物や淡水性の植物や藻類などを食べてしまうことなどが起きています。文献で水生植物や車軸藻類の生育記録がある池や沼でも、コイが放流されたところでは、そのような種が絶滅していることがあります。似たようなケースとして、釣りの対象であるヘラブナという魚がいます。ヘラブナは琵琶湖・淀川水系の固有種であるゲンゴロウブナの系統の魚で、これも養殖されて各地で放流されています。ヘラブナ自体の環境への影響は、不明とされていますが、放流された釣り場は、富栄養化が進み、淡水性植物や藻類への影響がないとはいえないでしょう。因果関係は不明ですが、かつて県内でも多くの車軸藻類が生育していた池沼がヘラブナ釣り場になっていて、車軸藻類の生育が確認できなくなったところがあります。

 このようにいろいろな状況があって、人の活動も止めることもできないので、外来生物の問題解決は大変です。奥が深い問題ですから探究してみることも良いかと思います。

 外来生物が在来の生育環境を奪ってしまう、食べてしまう、在来の種と遺伝的に混ざってしまうなど、様々な問題があります。日本の豊かな生態系を後世に残すために、今を生きている我々の責任ある行動が不可欠です。そのためには、自然のことについて関心を持ち、色々と知ることが大切です。自然豊かな小鹿野の地で学ぶ生徒の皆さんもぜひ、身近な自然に目を向けてください。

2024年4月 所変われば品変わる

 新年度が始まりました。新入生の皆さんは、そろそろ学校に慣れてきたことと思います。周りのことに興味を持つ余裕も出てきたでしょうか?ところで皆さんは自然のことに関心がありますか?生徒の皆さんの多くは秩父地域に住んでいるので、自然豊かなことが当たり前で、素晴らしいことに気がついていないかもしれません。

 さて、「所変われば品変わる」という言葉を聞いたことがあると思います。精選版日本国語大辞典を引いてみると、「土地が違えば、それに従って風俗や・習慣・言語などが違う」と書いてありました。植物も「所変われば品変わる」のです。

 昨年度4月の校長ブログで、小鹿野町との縁について書きましたが、小鹿野町の二子山は、私にとって忘れることができない山です。二子山の山頂付近は、石灰岩が露出していて、ロッククライミングでも親しまれています。石灰岩地には同じ秩父地域でも例えば両神山のような珪質の岩石でできている山とは違う植物が生育する傾向があります。例えば石灰岩地には石灰岩地特有の植物が生育するということです。同じようなことが、蛇紋岩地の山でもみられます。まさに「所変われば品変わる」です。石灰岩地に生育する種類の場合、石灰岩地の土壌に含まれるカルシウム分などが生育に不可欠な植物であるという可能性と、高濃度のカルシウムイオンに耐性があるという可能性が考えられます。石灰岩地にだけ生育する植物でも、栽培してみると、石灰岩を必要としないものもあるということですから、種間の競争を避けて過酷な石灰岩地を生育の場としているものが多いのかもしれません。また、石灰岩地でみられる現象としては、通常は、石灰岩地に生育が限られない種類が、分布の限界に近いところでは、石灰岩地に多く生育するというようなことが知られています。蛇紋岩地でも同じようなことがあります。そのような植物の例がヤマブキです。

 ヤマブキ

ヤマブキ

 

ヤマブキは、斜面などに生育する高さ1mほどの落葉低木です。秩父地域では、4月ごろ黄色で5枚の花弁を持つ直径3cm程度の花を咲かせます。ヤマブキの花は鮮やかな黄色で、その色を山吹色ということもあります。また、その色から小判や大判のことを山吹色と言ったりもします。さて、このヤマブキは、朝鮮半島や中国にも分布していますが、国内では北海道、本州、四国、九州に分布しています。南限に近い四国の高知県や九州の熊本県では、ヤマブキが石灰岩地に生育する傾向があるというような記述が植物誌などに見られます。また、秋になると赤い実を付けるナンテンも熊本県などでは、石灰岩地に生育することが多いとされています。ナンテンは、「難を転ずる」として縁起物の植物です。赤飯の上に葉の一部が乗せてあることもあるので、みたことがあるかもしれません。

 

校長室の前の植え込みに生えたナンテン

 

 このように植物も「所変われば品変わる」のです。本校では、6月に修学旅行がありますが、沖縄県に行くとまた、植物が違います。日本は、北から南まで国土が広がり、そこに生育する植物も大きく変わります。修学旅行では、沖縄の景観にも注目してもらいたいと思います。また、埼玉県は海なし県ですが、一番高い三宝山から平地までの標高差は2,500m近くあります。そして、石灰岩地など地質も多様です。まもなくゴールデンウィークですが、旅に出るときは、その地の自然にも注目すると、旅行の楽しみが広がると思います。

2024年3月 サクラではない「サクラ」 


 3月下旬になり、ソメイヨシノはまだですが、サクラのなかまの開花が始まってきました。サクラは、バラ科のサクラ属の植物の総称ですが、和名にサクラが入っているけどサクラのなかまではない植物も多く知られています。例えば、埼玉県の花「県花」は、サクラソウという植物です。

 

田島ヶ原のサクラソウ

田島ヶ原のサクラソウ

 

県内ではさいたま市桜区の田島ヶ原に生育地があり、国の特別天然記念物として保護されています。サクラソウは、江戸時代には、花見の対象にもされていたそうです。本来は川の氾濫原で土砂が堆積した湿地などに生育していました。現在は、治水工事が進み、氾濫が起こらなくなり、ヨシの刈取をしたり、火入れをしたりするなど人の手が入ったりするような場所で、遷移が進みにくい場所に保護されて生育しているような植物です。田島ヶ原では1月に火入れを行い、地表に光が届くようになり、遷移も進まないようにしているそうです。田島ヶ原には、そのほか、先月の校長blogに書いた「春植物」であるジロボウエンゴサクやアマナなども生育しています。

 

ジロボウエンゴサク

ジロボウエンゴサク

 

アマナ

アマナ


 さて、実は小鹿野の地にも今の時期に花が咲くサクラではない「サクラ」が生育しています。フサザクラです。

 

開花が近いフサザクラ

 

フサザクラという植物は世界的には珍しい植物といえます。フサザクラのなかまであるフサザクラ科はアジアに固有で、フサザクラ属の1属だけでできています。フサザクラ属には2種が知られていて、そのうちの1種であるフサザクラが、本州、四国、九州に分布しています。秩父地域では特に珍しいものではありません。生育環境は、谷沿いの急な斜面などです。10mを超すこともある落葉高木で高さ10mを超すこともあります。今の時期は、ほかの木もほとんど葉をつけておらず、赤い少し変わった花が咲いているので注意していると気がつきます。フサザクラの花には、花びらである花被や、萼がありません。多数の赤い雄しべのやくが房状に下がっていることからフサザクラという和名になったといわれています。

 

フサザクラの花

花被や萼がなく雄しべが目立つフサザクラの花

 

花の時期以外は特に目立つ植物ではありませんし、花も特別目立つものではないですが、皆さんの近くに世界的に珍しい植物がひっそりと生育しています。明日からいよいよ新年度が始まりますが、小鹿野高校で学ぶ皆さんは、せっかくですから、まわりの豊かな自然にも気をとめて充実した学校生活を送ってもらいたいと思います。

2月 春の妖精

 今年は暖冬と言われていますが、上旬には、小鹿野町を含めた関東地方太平洋側の地域でも積雪がありました。中旬には最高気温が20℃を超えるまで上がった日もありました。日照時間も延びて、植物も春に向けて動き出しています。今月は春の妖精(spring ephemerals )ともいわれる「春植物」についてお話しします。 
 皆さんは春の花というと何を思い浮かべますか?サクラという人が多いかも知れません。また、ウメという方もあるでしょう。しかし、これらは春に花を咲かせますが、春植物ではありません。春植物というのは、ちょっと変わった生活様式の植物です。春植物は、単に春に花が咲く植物ではなく、一年のうちで春の短期間だけ地上に葉を展開して花を咲かせ、種子を作り、夏ごろまでには地上部を枯らして見えなくなるような生活をする多年生の植物です。一年のほとんどを休眠状態で過ごすので、地下茎などを発達させて生育に必要な栄養などを蓄えています。地下部が発達している春植物のカタクリは、地下の鱗茎にデンプンを蓄えます。そこから取り出したデンプンが、もともとは片栗粉として利用されてきました。

 

 カタクリ(撮影地 新潟県)

 

 小鹿野町には、セツブンソウという春植物の生育地があります。セツブンソウは、キンポウゲ科の草本で、開花期が2~3月ごろであることからセツブンソウと呼ばれています。秩父の地域では、2月の終わりごろから咲くことが多いと思います。下の写真は2007年に旧両神村で撮影したものです。この写真から生育環境の特徴がある程度わかります。落葉広葉樹林下で低木や常緑の草本が少なく春の開花期に地表まで良く光が届くような場所です。あわせて、芽を出して葉を開く時期にある程度、土壌が湿っていることも重要です。したがって、春植物が生育しやすい環境は、適度に土壌が湿っている落葉広葉樹林下で、低木層や草本層が発達していない場所という感じです。低木や草本層が発達しない環境は、人の手が入ることで維持される里山の自然だったりします。

 

旧両神村のセツブンソウ生育地

旧両神村のセツブンソウ生育地

セツブンソウ

セツブンソウ

 

 通常、植物は個体間でも種間でも光合成のために光を奪い合います。しかし春植物は、落葉広葉樹林の植物が葉を展げるころには一年分の地上部の活動を終えるため、他の植物と光を奪い合うことなく生育できます。つまり空間は一緒でも時間が一緒にならないような仕組みになっているわけです。これも限られた資源を有効に活用する植物の生存戦略のひとつと言えるでしょう。このような「春の妖精」が学校がある小鹿野町内で見られます。スギ花粉で辛い人もいるかも知れませんが、春を感じに出かけてみると新たな視点が得られるかも知れません。

1月 探究のすすめ

 始業式では、元日の災害のことや新しい年を迎えるにあたり目標を立てようとお話ししました。私もいくつか目標を立てました。今月は、探究に力を入れてもらいたいというお話をします。
 私は、大学を選ぶときに教職を目指しましたが、生物分野での研究にも興味がありました。私が生物分野に興味を持ったのは、小学生になるより前のことでした。当時、ありがたいことに生物に詳しい大人が私の身近にいました。その人の影響を受けて生物全般に興味を持ったのだと思います。それに加え、牧野富太郎氏による植物図鑑、いわゆる「牧野図鑑」にも大きな影響を受けました。最近の図鑑は、きれいなカラー写真が掲載されていて、見た目も美しく見ているだけでも楽しいものですが、「牧野図鑑」は、スケッチを基にした線画で植物を描いていて、一見地味です。しかし、写真では、細かい形態がわからないことも多く、丁寧に描かれた線画は大変優秀だと感じています。
 そのようなわけで私は植物のことを調べることに興味を持った子供でした。小学生のころ植物の興味の対象は、花が咲く種子植物でしたが、「牧野図鑑」でとても気になっていたものがあります。シャジクモやフラスコモといった車軸藻類です。車軸藻類は、淡水や汽水に生育する立体的な構造の比較的大きな藻類です。その線画を見て、生きている車軸藻類を見たいと強く思いました。しかし、残念なことに、高度経済成長期と呼ばれた1950年代から1970年代には、宅地や工業用地の造成など開発が進んでいました。池沼は富栄養化が進み、コイや草食性の外来魚の放流なども多く、陸水系の環境は悪化していました。私が車軸藻類を調べたいと思ったころには、県内で車軸藻類をほとんど見ることができなくなっていました。かろうじて、見ることができたのはシャジクモです。これは水田にも生育していて、家の近くでも見ることができましたが、そのほかの車軸藻類は見ることができませんでした。

 

シャジクモ(埼玉県産)

 

それから大人になってもなかなかシャジクモ以外の車軸藻類との出会いはありませんでした。しかし、機会はやってきました。あきらめないことで思いがかなったのです。遂に10数年前にシャジクモ以外の車軸藻類と出会いました。そして、子供のころの思いがよみがえってきました。「車軸藻類のことを調べたい」と。

 

クサシャジクモ(沖縄県の水田脇の水路に生育)


 日本の車軸藻類の研究は1950年代にかなりまとまっていたようですが、前述のとおり、生育環境の悪化が原因で、ほとんどの車軸藻類は絶滅危惧種になっています。しかし昨今、環境問題に対する意識が高まり、環境が改善されてきている面もあります。それに加え、車軸藻類の有性生殖で造る卵胞子は、生育に適する環境ができるまで60年も休眠できるといわれています。

 

 

ミルフラスコモの卵胞子(群馬県産)

 

実際に、東京都三鷹市の井の頭恩賜公園の池で、およそ60年ぶりにイノカシラフラスコモが再発見されています。井の頭公園の池は1957年に発見されたイノカシラフラスコモの基準産地だったのですが、1963年に池の水が干上がり、その後イノカシラフラスコモは見つかっていませんでした。2016年にかいぼりを行い、池の水を全部抜いて乾かしてから、改めて水を入れたところ、イノカシラフラスコモが復活したそうです。他にも、各地で休耕田やため池などで車軸藻類が再発見されたなど報文があります。私も県内を中心に調査を始めました。去年は、フィールドの調査で成果がありました。今年はその成果を形にしていくことが目標の一つです。1950年代の文献や最新の文献、中には英語で書かれている論文もありますが、それらを読んでみたり、現地調査を行ったり、観察し記録をすることなど、研究するにあたりやるべきことはたくさんあります。これはとても楽しい時間の使い方です。
 皆さんも学校では「総合的な探究の時間」があります。「探究」これは研究と言い換えても良いと思いますが、探究を通して何か物事を極めていくことの楽しさを味わってもらいたいと思います。そして身に着けた探究の手法は、皆さんが社会で出会う様々な課題に対応できる力になると思います。

12月 寄生植物

 先日無事に2学期を終業式を終えて冬季休業に入りました。学校から見える山の様子もスギやヒノキの人工林を除き、ほとんどの木々は落葉して厳しい冬の時期を過ごします。葉を付けていない方がエネルギーの収支で有利なのでしょう。

 今月は、少々変わった植物である寄生植物を紹介します。

 はじめに植物の特徴を確認します。植物の特徴は?というと、第一に葉緑体が細胞にあり、光合成をする生物であることではないでしょうか。昨今の環境問題でも大気中の二酸化炭素が増加していることが問題視されています。二酸化炭素の削減には、植物や藻類など光合成をおこなう独立栄養生物に頼ることが無理や無駄のない方法だと思います。植物や藻類が炭素固定する過程を光合成と言いますが、陸上の緑色植物が炭素固定で生産する有機炭素化合物は、グリーンカーボンとよばれ、主に海水性の植物や藻類が炭素固定により生成する有機炭素化合物をブルーカーボンとよんでいます。植物や藻類による光合成は、環境問題解決の鍵と言えます。

 話は戻り、寄生植物ですが、文字どおり寄生をする植物のことです。寄生とは、ある生物が、違う種の生物と共に生きていて、一方が栄養などを継続的に奪っている関係性のことです。共生の極端な形ということができると思います。奪う側は、寄生者といい、奪われる側は、宿主(しゅくしゅ)といいます。寄生者の方が宿主より小さいことの方が多いです。食う食われるの関係で小さい種類が大きい種類を少しずつ食べているというイメージもできそうです。

 寄生という関係が植物間に見られる場合、寄生者のことを寄生植物といいます。寄生植物とよぶ植物は、まとまった系統ではなく、いくつかの科にみられます。本来は光合成をして炭素同化する植物が、他の種類の植物から栄養などを奪うようになっていますので、およそ植物らしくないと言えます。そのためか、寄生の度合いが強いものは、ほとんど緑色をしていません。下の2枚の写真の寄生植物は、鹿児島県の奄美大島で2004年の12月に撮影したものです。葉緑素がなく、赤かったり、白っぽかったりと植物らしくない色をしていますね。

 

 ヤクシマツチトリモチ

 

ヤッコソウ

 

 寄生植物は埼玉県内にも生えています。先月小鹿野高校の敷地内にも生えているのを見つけました。この植物は、アメリカネナシカズラというヒルガオ科の植物です。その名のとおり、根がないつる植物です。このなかまは、種子が発芽して宿主になる植物に絡みつくと、寄生根で宿主の茎に自分の維管束をつなげます。そうすると、もともとあった根は不要になり、融合した部分から下はなくなります。色も緑色をしていません。全く光合成をしない全寄生植物です。

 

駐車場の植込みに生えていたアメリカネナシカズラ(黄色いつる状のもの)


アメリカネナシカズラの花

 また、寄生植物には、半寄生植物というものもあります。ヤドリギは半寄生植物で自らも光合成を行うため、緑色をしています。宿主が落葉する今の時期は緑色の塊に見えるヤドリギがとても目立ちます。特に珍しいものではないのですが、果実がキレンジャクやヒレンジャクなどの鳥に食べられた後、種子が糞と一緒に木の枝の上に排出されて、うまくそこで発芽できると、宿主の樹種の枝の中に侵入していきます。そのため、ヤドリギの分布は、果実を食べる鳥の行動範囲と関連すると言われています。県内では秋ヶ瀬公園などキレンジャクやヒレンジャクがよく見られるところにヤドリギが生えていることが多いようです。下の写真は群馬県前橋市の大室公園で2022年の3月に撮影したものです。ここもヒレンジャクやキレンジャクの飛来地として有名だそうです。冬は落葉樹に寄生するヤドリギをみるチャンスです。これから春の芽吹きまでの間、どこかに出かけたときに、上も見上げてみてください。

落葉しているサクラに寄生しているヤドリギ(緑色の部分)

11月 紅葉

 秋になると植物の葉が色づきます。一般的に紅葉と呼んでいる現象です。この時期に紅葉する樹木は、主に落葉樹という生活スタイルの植物です。紅葉した後、葉を落として冬を過ごすことになります。これに対して常緑樹というものがあります。こちらは1年を通して葉が付いているように見える樹木です。落葉樹は落葉している時期によって夏緑性、冬緑性と分けることができます。秋に紅葉しているのは夏緑性の樹木ということになります。

 紅葉と漢字で書き「もみじ」と読ませることもあります。古語に「もみいづ」という動詞があります。これは、葉をもむことによって色が出てくるというような意味で、これが「もみじ」の語源だと言われたりしています。古今和歌集にもこの言葉が使われている和歌があるようです。

 「もみじ」というと、紅葉する現象のほかに、カエデ属のことを指す場合があります。カエデ属は、「かへるで」つまり、カエルの手という意味と言われますが、多くのカエデ属の葉は、掌状に切れ込んでいることで、この形がカエルの手に似ているとされたようです。「かへるで」という語は万葉集の和歌でも使われているそうです。

小鹿野高校に植栽されているカエデ

小鹿野高校に植栽されているカエデ

 

 カエデ属は、庭園にもよく植えられていて、赤や黄色に美しく紅葉します。カエデ属の材は様々なものに利用されます。樹液はメープルシロップの材料にもなります。秩父地域ではイタヤカエデなどの樹液から作った、いわゆるメープルシロップを使ったお菓子などを生産しています。メープルシロップというとカナダのものが有名で、カナダの国旗にはその材料が採れるサトウカエデの葉がデザインされていますので、皆さんも見たことがあると思います。県産のメープルシロップは、イタヤカエデのなかまから採った樹液を原料にしていると聞いたことがあります。

 さて、紅葉の仕組みについて説明します。詳しいことはよくわかっていない部分がありますが、通常2つのパターンで説明されます。その前に共通することですが、落葉の時期が近づくと、葉柄の基部、つまり葉の付け根付近に離層という細胞構造ができます。そして時期が来ると、ここからぽろりと葉が落ちるようになります。この離層が形成される状況は、葉の維持に大きなコストがかかるときです。植物は、基本的に光合成をして炭水化物を生成しますが、その産み出すエネルギーと生活に必要なエネルギーの収支のバランスで消費が生産を上回るときには、葉を落として耐えたりすることになります。

 

落葉が近いメタセコイア

 

 最初に、黄色く色づく現象ですが、落葉を準備する過程で、光合成色素であるクロロフィルが分解されていきます。そうすると、葉を緑色に見せていたクロロフィルが減るので、緑色が薄くなるわけです。そのとき、葉に残っているカロテン、ニンジンのオレンジ色のもとです(ニンジンは英語でcarrotですが、caroteneと関係がある言葉だと思います)。そのほかの色素などまとめてカロテノイドといいますが、これらの色が見えてくるのが、黄色に色づく仕組みとされています。

 

黄色く色づいたイチョウ

 

 次に赤く色づく現象ですが、離層が形成されてクロロフィルが分解されるときにアントシアニンという赤や紫色系の色素(6月のスミレの生存戦略で紹介したノジスミレの花の色はこの色素によるものです)が作られ赤く色づくというものです。

 

小鹿野高校に植栽されているドウダンツツジ

 

 紅葉は植物が低温に適応した仕組みの一つです。植物にとって、低温と乾燥は生育に不適な状況です。生育に不利な状況である冬期に、葉を落として生育に適した時期まで耐え忍ぶわけです。

 明日から12月、1年の締めくくりの時期が近づいてきていますが、生徒の皆さんも来年度に向けて、葉が黄色く色づくように、内面の良さを際立たせたり、葉が赤く色づくように、新たな可能性を高めてもらいたいと思います。

10月 校章とイチョウ

10月23日は、小鹿野高校の開校記念日でした。今月は校章に関連したお話です。本校は、昭和28年に埼玉県立秩父農業高等学校小鹿野分校が埼玉県立小鹿野高等学校として設置されスタートしました。校章のデザインは、そのときに選定されたものです。2枚のイチョウの葉の上に高校の「高」が描かれ、ひし形のものは、地元である小鹿野町の町章を形どったものです。本校の母体であった埼玉県立秩父農業高等学校は、現在は秩父農工科学高等学校になっていますが、その校章にもイチョウがデザインされています。

 小鹿野高校の校章

小鹿野高校の校章

 

 このようにイチョウは、本校のシンボルではありますが、学校の敷地内に植えられているのはわずかに1本だけです。生徒のみなさんはどこに植えられているか知っていますか?敷地の内の国道側に注目してください。事務室の近くです。

 小鹿野高校内のイチョウ

本校敷地内唯一のイチョウ

 

 さて、イチョウとはどんな植物でしょうか?これから秋が深まると黄色く色づき、我々の目を楽しませてくれます。また、実のぎんなんは、茶わん蒸しには欠かせない食材だと思います。

 このイチョウは裸子植物という分類群の植物です。裸子植物にはソテツやマツ、スギなども含まれます。裸子植物なので花を付けますが、どれもみなさんが普通に花としてみている花とは違い、花とイメージしないような花を持つ植物です。

 裸子植物のイチョウのなかまは、古生代ペルム紀に現れ、中生代に栄え新生代になって今のイチョウ( Gingko biloba )だけが生き残りました。今は世界各地に植栽されていますが、もともとは中国には自生していた、まさに「生きている化石」です。小鹿野高校のある小鹿野町には「おがの化石館」があります。そこに問い合わせたところ、残念ながら小鹿野町からイチョウの化石は見つかっていないとのことでした。

 話は戻って、イチョウは雌雄異株の植物です。性別が雄の個体と雌の個体があるということです。つまり、実であるぎんなんは雌の木に着くことになります。しかし、雄の木に実ができたという事例もあります。

 私は以前、「オハツキイチョウ」という現象を調査しました。県内だと春日部市の寺院でも知られていますが、山梨県の身延市には「オハツキイチョウ」が3本あり、そのうちの2本は国指定天然記念物になっています。写真からわかるように葉のふちに小さいぎんなんが付いているので「お葉付き」イチョウというわけです。これら国指定天然記念物の2本は雄と雌で別々の場所に植えられています。当然、雄の木にはぎんなんは付かないのですが、葉のふちに何かついている感じでオハツキイチョウであることがわかります。時期を変えて2度調査に行ったのですが、2回目の調査で雄個体にぎんなんができていることが見られました。調査から帰って調べると、その1年前くらいだったと記憶していますが、この雌の個体に実ができたという報文を見つけました。やはり、地元でよく見ている研究者にはかなわないと痛感しました。みなさん身の回りのことに注目して何か調べると思わぬ発見に出会うかもしれません。

 

オハツキイチョウ(雌木)

オハツキイチョウのぎんなん(写真中央 葉のふち)と通常のぎんなん(写真右) 

 

9月の植物 ヒガンバナ

 暑かった夏が終わり朝晩かなり涼しくなってきました。「昔から暑さ寒さも彼岸まで」などと言いますが、今年もそのとおりになってきました。「お彼岸」は年に2回あり、秋分の日と春分の日のそれぞれその前後3日間を合わせた7日間が「お彼岸」です。

 さて、9月の中下旬ごろ、田のあぜなどで赤い花を咲かせる植物が目立ちます。その名もヒガンバナです。秋の彼岸のころ咲くことから標準和名がヒガンバナです。とても目立つ花なので、県内でもヒガンバナがたくさん咲く観光地は有名です。このヒガンバナは、もともと中国原産で日本に帰化した外来植物です。

 ヒガンバナは少し変わった生活をしています。ヒガンバナの1年を簡単に説明すると、開花している9月ごろには葉がありません。冬が近づくと葉を出します。その葉で光合成を行い、地下部にある鱗茎(りんけい)に養分を蓄えます。翌年の夏の前までに葉を枯らし彼岸のころまで地上部は見えません。これの繰り返しです。

 

路傍に咲くヒガンバナ

路傍に咲くヒガンバナ

 

 ところで外来植物のヒガンバナはどうして日本に渡ってきたと思いますか?花がきれいだから持ち込まれたのでしょうか?その答えは、鱗茎の養分に注目したからとなります。鱗茎(りんけい)とは皆さんがよく使う言葉でいうと「球根」です。ヒガンバナは、鱗茎を食べて飢饉のときの生き残るための救荒植物(きゅうこうしょくぶつ)として持ち込まれたようです。しかしいろいろと試したくなる私でも、ヒガンバナは食べたことがありません。なぜならヒガンバナは有毒植物として知られているからです。ヒガンバナのなかまはLycoris という属名の植物です。Lycoris にはリコリンという毒物が含まれています。飢饉のときなど、どうしても食べなければならない状況で、リコリンを取り除き食べたようです。十分に取り除くことができなければ健康に害があったことでしょう。そんなことから、ヒガンバナが救荒植物として使われたのは、新たな救荒植物、例えばサツマイモなどが普及すると使われなくなったと思われます。

 ヒガンバナは外来植物にも関わらず、注目されてきた植物といえます。その理由は、数多くの和名があることです。標準和名はヒガンバナで、これは図鑑にのっている日本全国共通の呼び名です。しかし、「方言」にあたる和名などたくさん知られています。例えば「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」は有名です。皆さんの御両親や祖父母の皆さんに聞いてみると、意外な呼び名があるかもしれません。私が育った県北地域でも住んでいるところで呼び名が少しずつ違っていました。私が小さいころ、近所のシニア世代の方は、「はっかけばばあ」と呼んでいたことを記憶しています。良い印象の言葉ではないですね。後に文献などで知りましたが、ヒガンバナの方言には「はっかけばな」という和名がありました。おそらく花が咲くときに葉を欠く、つまり「葉欠け花」と推測できます。そうすると、「はっかけばばあ」は「葉が欠ける」が「歯が欠ける」になり、「ばな」が「ばばあ」となったのではないかと納得しました。

 このように調べてみると知らないことがたくさんあります。皆さんが取り組む探究活動によって、今まで知らなかった事実に到達するかもしれません。研究することは大変おもしろいことです。皆さんもこれからの生活で自分でいろいろなことを調べることの基本を総合的な探究の時間の取組で身に付けることができると思います。探究活動にじっくり取り組んで下さい。